『トロピカル・マラディ』アピチャッポンの「山月記」

トロピカル・マラディ(2004)
TROPICAL MALADY

監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:バンロップ・ロノーイ、サクダー・ケーオブアディetc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

MEMORIA メモリア』スペース準備の一環でアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の代表作『トロピカル・マラディ』を観た。本作は、カイエ・デュ・シネマが2000年代のベスト3位に選ぶ作品であり、本紙が本格的にアピチャッポン監督を持ち上げるきっかけとなった作品である。そして我々日本人にとっては、学校で多くの者が習う中島敦「山月記」の映画化として有名な作品だ。ということで感想を書いていく。

『トロピカル・マラディ』あらすじ

「真昼の不思議な物体」「ブリスフリー・ユアーズ」のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督が手がけ、2004年・第57回カンヌ国際映画祭で審査員賞、第5回東京フィルメックスで最優秀作品賞を受賞。フランスの名門映画誌「カイエ・デュ・シネマ」が選出する04年のベストワンにも挙げられた一作。前半で愛し合う2人の青年の日常をみずみずしく淡々と描き出しながらも、後半は予想もつかない物語が展開されていく。2012年、ウィーラセタクン監督作を一挙上映する「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ」で初上映。16年に再度行われた特集上映「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2016」でも上映。

映画.comより引用

アピチャッポンの「山月記」

兵士と現地人の交流を描いた前半と「山月記」パートに本作が分かれている。第一部では兵士と現地人のキラキラした日常の断片が描かれる。兵士は死体と写真を撮ったり、仲間と談笑をしたりする。都市部では、労災が起きそうな危険な氷の切り出し作業や、歌のショー、物売りの活気が描かれている。その中で兵士は現地人と仲良くなり、恋人に近い関係になっていく。映画館では、ゲラゲラ笑いながらも下半身では密なコミュニケーションが取られている。でも、二人は結ばれることがない。

第二部では、森の奥でトラの亡霊をと対峙する男の話となっている。中島敦「山月記」を知っていると、挫折した李徴が虎となってしまい、その記憶を旧友の袁傪に託そうとする切ない話が、過ぎ去った輝ける青春を必死に記録に残そうとする物語に置換されており、熱気あふれる前半と静寂が包み込む後半のコントラストに魅了される。

そして虎と対峙する場面の霊的存在の、心地よさは『ブンミおじさんの森』に繋がっていることが分かる。正直、『MEMORIA メモリア』以外の作品は言語化できない独特の印象があり、私では太刀打ちできないのですが、美しかったことだけはお伝えしたい。

ちなみに、本作では広場でエクササイズする場面があるのですが、これがめちゃくちゃ面白く、バイブス上がるのでやはり劇場でまた上映してほしいですね。

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※映画.comより画像引用