【イスラーム映画祭9】『私が女になった日』イラン/怒りのデス・ロード

私が女になった日(2000)
THE DAY I BECAME A WOMAN

監督:マルズィエ・メシュキニ
出演:ファテメ・チェラグ・アザル、シャブナム・トルーイ、アズィゼ・セッディギetc

評価:100点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

イスラーム映画祭9のラインナップに大傑作映画『私が女になった日』があった。自分は4年ぐらい前に観て、Filmarksに長文レビューを書いていたのだが、なぜかブログにアップし忘れていたので転載する。

『私が女になった日』あらすじ

《第一話 ハッワ(イヴ)》イランでは9才になると女の子は大人として扱われ、男の子たちとも遊べなくなる。今日はハッワの9才の誕生日。彼女の生まれた正午までの1時間、ハッワは男友達ハッサンと遊びたいと祖母と母親にお願いするが……。《第2話 アフー(鹿)》女性による自転車レース。チャドルをまとい、ものすごいスピードで女たちが自転車を漕ぐ中、参加者の1人アフーの後を、馬に乗った男たちが追いかける。離婚を望むアフーに男たちは家に帰るよう説得するが……。《第三話 フーラ(妖精)》老女フーラはバザーで次々と買い物をする。海辺で買ったものをすべて広げ、大切な思い出を思い返そうとするが、年老いた彼女にはなかなか難しい……。

映画.comより引用

イラン/怒りのデス・ロード

イランの巨匠モフセン・マフマルバフの妻マルズィエ・メシュキニ監督作にしてヴェネチア国際映画祭新人賞を受賞した逸品。これは彼女にとっての賭けであった。3話構成の本作は、イスラム社会によって抑圧される女性像を映画というメディアで最大限解放して魅せた作品だ。それも単に政治的メッセージを声高らかに叫ぶのではなく、アート映画としての風格をもって描くのです。

第一話では、スカーフをつけたくない少女と、彼女と遊びたがっている少年との駆け引きが描かれる。少女が外へ出ようとすると、親たちがスカーフをつけるように言う。なんでスカーフをつけなきゃいけないの?と抵抗する少女の目線の先に、早くこないかなと誘う少年の眼差しがある。スカーフをつけようにも布の大きさがイマイチで、ハサミでジョキジョキと切り出し中々彼女は外へ出られない。少年は、「先に行っているよ!」と去ってしまう。第一話は、国際的に評価される子どもを主人公としたイラン映画といった感じだ。その素朴な焦ったさをキメ細かいカメラワークで表現する。

そして、この作品が伝説となったのは第2話である。イスラム社会でタブーとされている《女性が自転車に乗ること》についてサウジアラビア映画『少女は自転車に乗って』と全く違ったアプローチで描いている。少女軍団が自転車レースをしている。カメラは主人公にフォーカスがあたる。彼女はとても疲れていて今にも止まりそうだ。しかし、少女軍団が彼女を追い抜くと、「頑張らねば! 」と全力でペダルを漕いで先頭に躍り出るのだ。しかし、また追い抜かれてしまう。走行していると、後方から馬に乗ったおっさん二人がやってきて、説教を始めるのだ。止まるんだ!無礼者め!女が何自転車に乗っているんだ!と。不思議なことに、おっさんが説教をする相手は彼女だけ。他の少女たちはアウト・オブ・眼中なのだ。そして、今にも止まってしまいそうな彼女の前に、音楽をヘッドホンで聴きながらガンガン飛ばしてくるカリスマ的チャリンコ少女が現れる。イスラム社会においてタブーを極めたアイコンが目の前を駆け抜けていくのだ。このこれはイラン女性怒りのデス・ロードだ。抑圧からの解放を自転車に象徴させ、それを止めようとする男との闘いを通じてイラン社会に強い批判を投げかけている。彼女は一人じゃない。仲間はたくさんいる。自由を得たイラン人女性もいる!そんな希望を、手汗にぎるアクションと美しい風景を捉え切る芸術性でもって描き切った本作は私的オールタイム短編ベストに入ることでしょう。

そして第3話で迎えるクライマックスは美しい。ショッピングセンターに買い物かごをもった少年が大量になだれこむ。そして少年たちがゲットしたであろう日用雑貨を浜辺に並べ、家が形成される。そこに鎮座するのはおばあちゃん。おばあちゃんはイラン社会で悲しい人生を送っている。その恋愛悲嘆が語られる。その周りで、少年たちがきゃっきゃきゃっきゃ騒ぎ、そして第1話で登場した少女、第2話の自転車少女軍団がアッセンブルしはじめる。そして、少年たちが「おばあちゃん行こう!」と奮い立たせ、ショッピングセンターでゲットしてきたものをかき集めたオンボロ筏で、遠く遠くに移る船目指して去っていくのだ。移民とはなんなのだろうか?それは単に「もっと豊かになりたい」という欲望から移動する民のことではない。強烈なその土地の文化に抑圧され、悲劇の淵に立たされたものが蛹に転生するようなものだ。蝶になれないかもしれない。しかし、芋虫のままでは踏み潰されてしまう。だから動くしかない!というメッセージを、これほどまでに力強いメッセージで叩きつけられたブンブンの瞳には涙で満たされた。

これは今年の旧作ベスト間違いなしの大傑作、5億点の作品といえよう。

※IMDbより画像引用

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