【東京国際映画祭】『彼方のうた』そこにいない者に輪郭を与える

彼方のうた(2023)

監督:杉田協士
出演:小川あん、中村優子、眞島秀和、Kaya、野上絹代、端田新菜etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

杉田協士監督新作『彼方のうた』を第36回東京国際映画祭で観てきた。

『彼方のうた』あらすじ

「春原さんのうた」で国内外から高く評価された杉田協士監督の長編第4作で、デビュー作「ひとつの歌」以来12年ぶりとなるオリジナル作品。

書店員として働く25歳の春は、ベンチに座っていた雪子の顔に浮かぶ悲しみを見過ごせず、道を尋ねるふりをして声をかける。その一方で、春は剛という男性を尾行しながらその様子を確かめる日々を過ごしていた。春は子どもの頃、街で見かけた雪子や剛に声をかけた過去があった。そんな春の行動に気づいていた剛が彼女の職場に現れ、また春自身が再び雪子に声をかけたことで、それぞれの関係が動きはじめる。春は2人と過ごす中で、自分自身が抱える母への思いや悲しみと向き合っていく。

「スウィートビターキャンディ」「あいが、そいで、こい」の小川あんが春役で主演を務め、雪役で中村優子、剛役で眞島秀和が共演。

映画.comより引用

そこにいない者に輪郭を与える

杉田監督は『春原さんのうた』で、そこに存在しない者がまるでそこに存在しているかのような間を形成していたが、本作もその系譜をいく内容であった。

方向音痴な女がキノコヤを探している。それに付き添う女だったが、店はやっていなかった。やけに間合いが近い方向音痴な彼女を家に招き飯をご馳走する。彼女は、映画撮影のワークショップに通っているようで、その風景とクロスさせて描かれる。

日常だったらあり得ないような間合い。それに対して気まずい、下手すると不穏な流れになってしまいそうな空気感を醸造しながらも、決定的事故を回避していく。その中で、そこにいない存在の輪郭が形成され、何故だか切なさを空間から感じるようになっていく。あまり観たことのないような空気感の作り方に、相変わらず翻弄されるのだが、この唯一無二な才能は積極的に世界に紹介されていってほしいと祈りたくなる。杉田監督、通常運転の切れ味であった。

P.S.今回はP&I上映で観たのだが、目の前に遅刻してきたおばさんが座ってきて、それだけならしも、途中でスマホを開きメールをし始めたので流石にキレた。映画舐めてやがる。目障りでしかない。
※映画.comより画像引用