【ネタバレ】『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』高揚感に溺れて

ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島(2005)

監督:細田守
出演:田中真弓、中井和哉、山口勝平、岡村明美、平田広明、大谷育江、山口由里子、大塚明夫、草尾毅、青野武etc

評価:80点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

VTuber竜輝竜さん(@r_gotyo)の「映画食わず嫌い王決定戦」で5本映画を選ぶ際に、細田守作品縛りにした関係で『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』を観た。ONE PIECEは、田中邦衛っぽい人がいる漫画というレベルの解像度である。細田守がONE PIECE映画を撮っていたことも今回のタイミングで知った。実際に観てみると、『ONE PIECE FILM RED』以上に『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』な映画だと感じた。つまり、私好みな作品であった。なお、本記事はネタバレ記事である。

『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』あらすじ

コミックス累計発行部数が1億冊を突破、テレビアニメもアメリカ進出を果たすなど快進撃を続ける人気シリーズの劇場版第6弾。航海の途中でオマツリ島の地図を見つけたルフィ海賊団は、地図の楽しそうな雰囲気に誘われて早速オマツリ島へ向かう。しかし、そこで彼らを待ちうけていたのは、ド派手な姿をしたオマツリ男爵による地獄の試練の数々だった。監督を務めるのは、「デジモンアドベンチャー」などの若手実力派・細田守。

映画.comより引用

高揚感に溺れて



細田守監督といえば、今いる世界と異界との関係性に固執している監督といえる。特に『サマーウォーズ』、『竜とそばかすの姫』のようにインターネット世界と物理世界との関係にか関心が強いらしく、物理世界(厳格にいえば、異界と繋がる前にいた世界)での移動は少ないが、異界では壮絶な冒険が行われるといった骨格は『時をかける少女』、『バケモノの子』、『未来のミライ』でも継承されている。

さてそれを考慮すると、映画版においてとある領域を主軸とした修羅場、アクションを展開するイメージが強いONE PIECE映画を細田守監督が手掛けたのは必然だったように思える。『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』では、目まぐるしく風景は変わるが、物語の舞台は島から出ないのだ。また、細田守監督の想定する異世界はインターネット的猥雑さを想定していると思われるため、ここで登場する島は目まぐるしく世界観が変わる作りとなっている。ジャングルかと思いきや、ディズニーシーの入り口を彷彿とさせるリゾート地的建築造形が現出する。時に、ヴェネツィアの水路のような空間が現れたかと思いきや、巨大金魚救いにアマゾン奥地の伝統的後継が広がる。そこに、ネオンサインといった現代的なものが映り込む。一方で、祭りの渦中から脱出すると、そこには荒野が広がっている。本作、制作の時点では、いわゆる遊園地的な、地続きでテーマが変わる様を投影したと思われる。しかし、目の前でガチャガチャと島の造形が変わっていく姿は、まさしくインターネット的な空間造形といえるだろう。

さて、本作はポスターヴィジュアルとは裏腹にとてつもなく怖い作品である。人によってはトラウマものだろう。イメージは『クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 サボテン大襲撃』であり、どちらも『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』的気持ち悪さがある。

祭りの高揚感に紛れた挑発にルファーが乗ってしまうことから運命の歯車が回り始める。セコい手を使って勝とうとする男爵サイドをあっさり撃退したルフィー一味だが、怒り狂う男爵にハメられて、彼が勝つまで帰れないバトルに巻き込まれてしまう。島は、群衆もいるのだが、妙な空気感に包まれている。人の気配はあるのだが、街が廃墟のように見えるのだ。それは、群衆がある特定の場所だけに集まっており、その背景に映る建物の窓に人の気配が描写されていないことによるものだろう。ホテルの中も、小綺麗だが、リゾート地っぽさと反して観光客が皆無となっている。廃墟特有の、「そこに誰かがいた形跡」から来る不気味さが立ち込めているのだ。

やがて、この不気味さの正体が孤独な男爵の渇望を栄養にする植物だったのだ。島の民には植物が生えており、高揚感の中では元気だが、肉体は萎びていく。定期的に栄養を与える必要がある存在で、男爵は訪れる海賊の関係性を「祭」で引き裂き、茎に栄養を運ぶ役割を担っていたのである。島民たちは、自分の正体を知らない。高揚感の中で、肉体が失われていくことに違和感を抱きつつ、死ぬこともできず生かされている。そして、ルフィーたちを捕まえる役割を命令され、粛々とこなしていくのだ。

まさしく、『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』で植物に身体を奪われた人々が主人公たちを追い詰めていくグロテスクさがそこにあるのだ。しかも、可愛らしいヴィジュアルの男爵の方についている花が、突然、集合体恐怖症を震え上がらせる造形に豹変するので、子どもの時に観ていたら間違いなく夢にうなされていたことでしょう。

細田守映画の中ではトップクラスに好きな作品であった。

※映画.comより画像引用