イメージズ(1972)
Images
監督:ロバート・アルトマン
出演:スザンナ・ヨーク、ルネ・オーベルジョノワ、マルセル・ボズフィ、ヒュー・ミリアスetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
いろんな監督の傑作選が上映される昨今。ロバート・アルトマンが参戦した。今回の特集上映では、定番の『ロング・グッドバイ』だけではなく、『雨にぬれた舗道』と『イメージズ』も上映される。ロバート・アルトマンといえば群像劇作家のイメージが強いが、サスペンス作品としての側面を掴める特集となっているのだ。実際に観てみるとこれが面白かった。
『イメージズ』あらすじ
ロバート・アルトマン監督がキャリア初期に手がけた「女性映画3部作」の第2作で、幻覚に悩まされる女性の姿をエキセントリックな映像で描いたドラマ。
ロンドンに住むキャスリンは、夫が浮気しているという謎の女からの不気味な電話をきっかけに、幻聴や幻視にさいなまれるように。キャスリンは心配する夫に連れられて田舎で静養することになるが、幻覚はさらにエスカレートしていく。
原作も手がけるスザンナ・ヨークが主人公キャスリンを熱演し、1972年・第25回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズとツトム・ヤマシタが音楽を手がけた。日本では「ロバート・アルトマン傑作選」(2023年5月26日~、東京・角川シネマ有楽町ほか)で劇場初公開。
冗談は幻覚に対する毒薬だ!?
夜な夜な電話が鳴り響く。謎の女から、夫の不倫を唆す声が聞こえてくる。キャスリン(スザンナ・ヨーク)は、片っ端から受話器を外していき夫の帰りを待つ。彼女の不安は夫が帰宅しても変わらず、田舎で養成することとなる。本作は、幻覚・幻聴に悩まされる者による虚実の重ね合わせが恐ろしく描かれている。例えば、彼女の周りでは足音やガラスの擦れる音が聞こえ、不安を揺さぶる。夫が帰宅し、安堵の瞬間が訪れたかと思いきや、扉からヌルッと虚像が顔を覗かせ、煽りを入れてくるのだ。そんな状況下で、夫は友人を連れてくるのだが、彼はこっそりキャスリンと肉体関係を結ぼうとする。レイプに近い空間が生まれてくる。その実態としての運動の横で、虚像がニヤニヤしながら彼女を見つめる。悪夢のように重ねあわさる虚実。それに対して夫は、無意識に彼女を突き放してしまう。ステーキ肉があるのに、冗談で「えっ買ってないよ」と嘘をつくのだ。虚実が現実としてそこに存在する世界にとって、真実が彼女だけのものなのか、他者から見ても納得がいく形なのかは対話による擦り合わせでのみ明らかとなる。しかし、その擦り合わせの中で嘘が挿入されるとパニックを引き起こすのだ。
✪『イメージズ』について
映りこみや鏡像というもの、実像を破壊して異なる様々なレイヤーを現実に与える映像に私は常に魅了される。
──「ロバート・アルトマン わが映画、わが人生」より抜粋撮影は名キャメラマン、ヴィルモス・ジグモンド! pic.twitter.com/H0O9dfEVTo
— 【ロバート・アルトマン傑作選】 (@altmanfilmsjp) May 22, 2023
本上映の公式Twitterによると、ロバート・アルトマンは「映りこみや鏡像というもの、実像を破壊して異なる様々なレイヤーを現実に与える映像に私は常に魅了される。」と語っている。不自然に立つ、カメラが破損する。事実を捉え、共通の真実を積み上げていく象徴が破損したことで、彼女の真実が、他者の持つ真実と乖離していき、拒絶し殺しても復活する幻覚が強化されていく様子は本作において最も光る演出と言えよう。『裸のランチ』において、書く行為が異なるレイヤーを繋ぎ止める役割を果たしていたが、繋ぎ止めていた金具が外れた世界での狂気が激る作品。それが『イメージズ』であった。
※映画.comより画像引用