インフィニティ・プール(2023)
Infinity Pool
監督：ブランドン・クローネンバーグ
出演：ミア・ゴス、アレクサンダー・スカルスガルド、クレオパトラ・コールマンetc
評価：45点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
デヴィッド・クローネンバーグの息子ブランドン・クローネンバーグ監督作は予告編を観ると面白そうに感じるが、実際に観てみるとイマイチな作品を作っている印象がある。今回の新作『Infinity Pool』も予告編を観る限り面白そうだったのだが、実際に観てみるとこれまた困った映画であった。
『Infinity Pool』あらすじ
James and Em Foster are enjoying an all-inclusive beach vacation in the fictional island of La Tolqa, when a fatal accident exposes the resort’s perverse subculture of hedonistic tourism, reckless violence and surreal horrors.
訳：ジェームズとエム・フォスターは、架空の島ラ・トルカでオールインクルーシブのビーチバケーションを楽しんでいた。ある日、死亡事故によって、このリゾート地の享楽的な観光、無謀な暴力、シュールな恐怖といった倒錯したサブカルチャーが露呈する。
※IMDbより引用
サイケデリックに逃げる
小説家は異国のリゾート地で虚空を眺める、バギーに乗って遊んでいる男を一歩引いたところから見ている。どうやらスランプであるようだ。退屈さに生きる男の前に、『不思議の国のアリス』における白ウサギのような魔性の女が現れる。この女、小説家のファンとのこと。彼女の誘いで食事に行き、プチ旅行へ行く。しかし、帰り道に車のライトの故障が原因で人を轢いてしまう。
捕まる小説家はこの国の恐ろしい制度を目の当たりにする。自分の分身が生成されるのだ。そしてその分身が殺されることで釈放される。どうやら魔性の女は、この制度にのめり込み、犯罪をしては捕まってを繰り返し中毒になっているみたいだと気付かされる。事態に気づいた時、彼は逃げられない迷宮の深部へと到達していたのであった。
分身の生成により、死が軽いものへと化けてしまうことで暴力に対する抵抗がなくなってくる様子を描いた本作は、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』から離れたところから死に対する認知の変化を捉えている。死ぬ度にリセットされていく状況になれ、死の恐怖がなくなり無敵の人になっていく『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。一方、こちらは死の恐怖がなくなることで暴力に対する抵抗がなくなる怖さへの抗いを描いているのだ。この観点自体は面白いのだが、本作はサイケデリックに逃げてしまっている残念さを抱えている。
サイケデリックな描写を通じて中毒を表象し、暴力への渇望を演出するのは陳腐であろう。サイケデリックと中毒を結びつける決定的なシーンが必要となってくる。例えばギャスパー・ノエ『CLIMAX/クライマックス』では、薬物入りのサングリアを飲んでしまい、狂乱の場と豹変するダンスフロアが描かれている。カメラは、部屋に出ようとするがなかなか出ない。廊下へ出ても、外へは行かない。このもどかしい描写を通じて、例えば飲み会で終電が迫っているのに身体が帰宅しようと動いてくれないような酔いを描く。中毒とは、頭では行動をイメージできるが身体が勝手に意図せぬ方向へと走ってしまう状況である。『CLIMAX/クライマックス』はサイケデリックな画を通じてそこまで掘り下げていた。
一方、『Infinity Pool』は単に怪しい飲み物を飲ませられ、女性の乳房が映し出されるサイケデリックな画を描写して終わりである。暴力は魔性の女サイドに託しているとはいえ、快楽と逃亡との間の葛藤が描き込めていないため、単なる見せかけの描写に感じるのだ。
うーん、今回もダメだったか。
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※MUBIより画像引用
