【ブンブンシネマランキング2021】旧作部門第1位はアルフレッド・ヒッチコックのあの修羅場映画

10.Rey

監督:Niles Atallah
出演:Rodrigo Lisboa, Claudio Riveros etc

「闇の奥」のように1960年代に南米の奥地を冒険し、先住民族マプチェ族を従え、アラウカニア・パタゴニアの王となったオルリ・アントワーヌ・ド・トゥナンの伝記映画。フィルムを腐食させた画を挿入することで生み出される虚実曖昧模糊な世界観に魅了された。

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9.結婚五年目(THE PALM BEACH STORY)

監督:プレストン・スタージェス
出演:ジョエル・マクリー、クローデット・コルベール、ルディ・ヴァリー、メアリー・アスター、シグ・アルノ、ロバート・ダドリー、ウィリアム・デマレスト、ジャック・ノートン、フランクリン・パングボーン、ジミー・コンリンetc

スクリューボールコメディといえば『赤ちゃん教育』が有名ですが、個人的に本作こそスクリューボールコメディの王だと思っている。結婚式当日のドタバタを超高速で魅せる驚愕の冒頭に始まり、トムとジェリーがごとく男と女が追いかけっこ。その道中の列車内では猟銃乱射集団がてんやわんやする。疾風怒濤、登場人物にも観客にも手綱を握らせず右左に引っ掻き回される快感が至福であった。

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8.GAMAK GHAR

監督:Achal Mishra
出演:Abhinav Jha, Mira Jha, Satyam Jha etc

今年の前半は踊らないインド映画観賞に力を入れた。大分インド映画界隈も踊らないインド映画への注目が集まるようになったが、やはりMUBIで配信されているようなアートインド映画はなかなか観てもらえないところがある。個人的には『GAMAK GHAR』が良かった。ある家の栄枯盛衰を淡々と見つめることで、家目線のドラマに仕上がっているところが素敵だった。映画館で観たいなと思う一方で完全に映画祭映画な為、日本公開が難しいものがあります。

【MUBI】『GAMAK GHAR』過ぎ去った過去は今よりも眩しい

7.ある学生(Student)

監督:ダルジャン・オミルバエフ
出演:ヌルラン・バイタソフ、マヤ・セリクバエワ、エディゲ・ボリスバエフ、バヒトジャン・トルダリエワetc

今年はカザフスタンの巨匠ダルジャン・オミルバエフ映画に出会えたことが一番大きかった。ドライなアキ・カウリスマキタッチの構図は、学生時代アキ・カウリスマキ映画に嵌っていた自分に刺さるものがある。本作はドストエフスキー「罪と罰」の映画化だが、雑貨屋の店主を殺す場面の鋭いカット割りから、不安が現実を侵食する場面の禍々しさに魅力を感じた。

『ある学生』カザフスタンの「罪と罰」

6.ゼロ・モティベーション(Zero Motivation/אפס ביחסי אנוש)

監督:タリア・ラヴィ
出演:Dana Ivgy,Nelly Tagar,Shani Klein etc

ここ最近は、Knights of Odessaさんや済藤鉄腸さんが紹介した映画が日本公開/配信される機会増えている。済藤鉄腸さんイチオシの『ゼロ・モティベーション』がJAIHOで配信されると聞いてとても喜んだのは記憶に新しい。ブルシットジョブに忙殺される女性事務員のフラストレーションを膨大に溜まった書類や、マインスイーパ、ホチキスで表現する小道具芸が見事であり、今年の大阪アジアン映画祭で上映された監督最新作『ハネムード』にも活かされていた。タリア・ラヴィ監督、MCU映画の監督いける気がする。

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5.セールスマン(Salesman)

監督:アルバート・メイズルスデヴィッド・メイズルスシャーロット・ズウェリン

Gucchi’s Free Schoolがここ最近、レアな旧作開拓に情熱を注いでるのだが、メイズルス兄弟の有名かつ日本では全く紹介されてこなかった『セールスマン』を公開に漕ぎ着けたのは驚愕であった。事実は小説よりも奇なり。事実の点を手繰り寄せることで我々に奇を魅せるドキュメンタリーの役割の極致であり、アメリカンドリームを背負った存在のセールスマンが、巧みな話術で聖書を貧困層に売りつけ、スランプに陥ると「セールスマンの死」における主人公の面影がチラつく異様な世界観に没入した。

『セールスマン』事実は小説よりも奇なり

4.クラッシュ 4K無修正版(CRASH 4K)

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:ジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、イライアス・コティーズ、デボラ・カーラ・アンガーetc

中学生の頃よくわからなかったデヴィッド・クローネンバーグ『クラッシュ』ですが、今回の4K無修正版での官能レベルが増された世界に吸い込まれると、社会のレールから外れる破壊願望の爆発と抑圧のコントラストの深い洞察力に感銘を受けた。個人的にクローネンバーグ版「不思議の国のアリス」が観てみたいものである。

【ネタバレ考察】『クラッシュ 4K』不思議の国のアリスの構造に耽溺するアリス

3.The Road

監督:ダルジャン・オミルバエフ
出演:ジャムシェド・ウスマノフ、サウレ・トクチバーエヴァ、アイヌル・トルガムバエヴァetc

ダルジャン・オミルバエフの夢や記憶と現実との交差の鋭さには毎回驚かされる。本作の場合、脳内で出来上がっている完璧な映画の提示に強い説得力があり、白黒でドライに殺しが行われる場面がとてもかっこよかった。また、気がつけば車が水に埋まりかけて動けなくなりそうになっている場面におけるタルコフスキー演出の応用には感心した。

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2.アウトサイド・サタン(OUSTIDE SATAN/HORS SATAN)

監督:ブリュノ・デュモン
出演:ダヴィド・ドゥワエル、アレクサンドラ・ルマートル etc

プティ・カンカン2/クワンクワンと人間でないモノたち』、『ジャネット』、『ジャンヌ』とようやく日本でもブリュノ・デュモン映画が日本紹介されるようになってきた。今年はcinemas PLUSでブリュノ・デュモン解説記事を書く関係で『FRANCE』以外の未観作を全て観た。その中で『アウトサイド・サタン』は群を抜いて面白く、道ゆく人が男によって殺され、必要な時に姿を消す悪魔の気まぐれさの甘美な味に酔いしれた。カイジの鉄骨綱渡りのような場面も注目である。

【特集ブリュノ・デュモン】『アウトサイド・サタン』神の救いは悪魔の蜜

1.見知らぬ乗客(STRANGERS ON A TRAIN)

監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ファーリー・グレンジャー、ロバート・ウォーカー、ルース・ローマン、レオ・G・キャロルetc

ヒッチコック映画は有名どこの『サイコ』や『鳥』よりも『三十九夜』や『ロープ』の方が面白いと思っているのだが、ここに来て凄い映画がやってきた。いわゆる修羅場映画であり、粘着質な男に交換殺人を持ちかけられ、逃げられなくなっていく話。この粘着質な男が不気味で、遊園地に黒づくめのスーツで侵入するのはよいが、入り口の真ん中で仁王立ちし、堂々とターゲットに近く気持ち悪さがたまらない。また本作はテニスの王子様よりもテニスをしているのはもちろん、他のテニス映画を凌駕する、緊迫感のある試合を魅せてくれる隠し味がある。そしてクライマックスには壮絶なメリーゴーランドアクションが控えており、これぞエンターテイメントだと思いました。

【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『見知らぬ乗客』ヒッチコックはスポ根映画の手本を魅せる

最後に…

2022年はいい加減に「死ぬまでに観たい映画1001本(2011版)」全制覇したいところ。残り100本ぐらいなので、本書を買って10年の歴史に終止符を打ちたいと思う。また、cinemas PLUSで映画ライターをしたり某映画会社でお手伝いをするようになったので、日本未公開の新作だけでなく旧作探究にも力を入れていきたい。

チェブンブンシネマランキング2021年新作部門

1.見知らぬ乗客
2.アウトサイド・サタン
3.The Road
4.クラッシュ 4K無修正版
5.セールスマン
6.ゼロ・モティベーション
7.ある学生
8.GAMAK GHAR
9.結婚五年目
10.Rey
11.氷海の伝説
12.フランケンフッカー
13.ヒッチ・ハイカー
14.C・C・ライダー
15.レディ・イン・ザ・ウォーター
16.SHANKS
17.パサジェルカ
18.TWO/ONE
19.47歳 人生のステータス
20.少年、機関車に乗る

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