【ネタバレ考察】『劇場版 呪術廻戦 0』正しさを振りかざさないで 事実が理由を喰いちぎった

劇場版 呪術廻戦 0(2021)

監督:朴性厚
出演:緒方恵美、花澤香菜、小松未可子、内山昂輝、関智一、中村悠一、櫻井孝宏、山寺宏一、松田利冴、松田颯水、津田健次郎etc

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が日本の映画興行収入史を塗り替える大成功を収め、アニメ映画が日本映画界の救いの手となっている。2021年の序盤では『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が後を継ぐように、1館で1日何十回も上映される列車スケジュールとなっていた。2021年末は『劇場版 呪術廻戦 0』がその役割を担い、TOHOシネマズ新宿では初日(2021/12/24)に41回上映を実現させていた。私はアニメ1期だけ観ている。非常にクセが強いアニメであり、序盤は右から左から次々と個性的なキャラクターが押し寄せる一方で、あまり登場人物の内面に迫る描写がなかった。観る者は虎杖悠二と共に、東京都立呪術高等専門学校に入学し、先輩や同級生に揉まれながら世界に没入していく物語であった。『劇場版 呪術廻戦 0』はその点わかりやすく、単体でも十分楽しめる作品となっていた。今回はネタバレありで書いていく。

『劇場版 呪術廻戦 0』あらすじ

「週刊少年ジャンプ」連載の大ヒットコミックを原作とする人気テレビアニメ「呪術廻戦」の劇場版。原作者・芥見下々が本編連載前に短期集中連載で発表した前日譚「呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校」を基に、呪いと化した幼なじみに憑かれた青年・乙骨憂太の“愛と呪いの物語”を描く。高校生の乙骨憂太は、幼い頃、結婚を約束した幼なじみの祈本里香を交通事故により目の前で亡くしていた。それ以来、呪霊化した里香に取り憑かれるようになった乙骨は、暴走する彼女に周囲の人々を傷つけられ苦悩していた。そんな中、呪霊を祓う“呪術師”を育成する教育機関・東京都立呪術高等専門学校の教師にして最強の呪術師・五条悟に導かれ、乙骨は同校に転入することに。自身の手で里香の呪いを解くことを決意した乙骨は、同級生の禪院真希や狗巻棘、パンダと共に呪術師として歩みだすが……。アニメシリーズでの本格的な登場は本作が初となる乙骨の声を「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの緒方恵美が演じる。

映画.comより引用

正しさを振りかざさないで 事実が理由を喰いちぎった

不良に絡まれる少年・乙骨憂太。

「来ちゃ駄目だ。」

という警告を無視して暴力を行使する不良は、背後から迫る影によって処刑される。ロッカーに4名の男子生徒が押し込められる惨劇に発展していく。彼は、かつて祈本里香と愛し合っていた。しかし、彼女が目の前で死亡した。車に轢かれ。それ以降、里香の呪霊が彼に取り憑き、憂太に危害を加えると呪霊が反撃してしまうようになる。孤独だった彼に手を差し伸べたのは五条悟だった。目元を隠したこの男に連れられ、東京都立呪術高等専門学校に入学し、呪霊と向き合う。最初は冷たくあしらっていた同級生とも徐々に関係を縮めていくが、そこへ彼の里香の呪霊を狙う夏油傑一派が現れる。時は12月24日百鬼夜行が決行される。

本作は、フィルム・ノワールのように人間の内面からの転落を扱いつつも、そこに救いの手を差し伸べる物語である。乙骨憂太はある種ファム・ファタールである祈本里香と堅く結ばれており、貧弱な心身に反して制御できない凶暴さを持ち合わせている。彼は冷たくあしらう禪院真希と小学校に同行する、ぎこちない会話を連ねる中で、巨大な呪いに捕食され、絶体絶命のピンチとなる。地獄の底の中で、彼は内なる欲望を吐露する。

「誰かと関わりたい。誰かに必要とされて、生きてていいって自信が欲しいんだ。」

彼の内なるモヤモヤが表面化し、精神的成長を果たす。次には肉体的成長である。刀で呪いを制御する修行を経た彼は、おにぎりの具しか話さない呪言師・狗巻棘と廃墟の商店街での任務に就く。同級生の中で一歩・秀でている彼。寡黙な彼に恐れと好奇を抱く憂太。爆ぜろ!と一撃で呪いを倒した一方で、彼の喉は枯れてしまう。強さと弱さを目の当たりにする憂太は親近感を抱く。安堵も束の間、そこへ強い「呪い」が現れ大ピンチとなってしまう。折角購入した喉ぐすりを「呪い」の近くに落としてしまうからだ。新人を傷つけたくない一心で、一人立ち向かおうとする狗巻棘。それに対して、「一緒に頑張ろう!」と今まで消極的だった彼が前へと歩み寄る。

アニメ第1期では主に、個による戦いが中心であったが、ここではジャンプ王道の「友情、努力、勝利」の熱いドラマが展開される。刀に呪いを宿し、間合いを取りながら、一撃を放つ。しかし、「呪い」の守りは硬い。自分は未熟だと悟る。ではどうするか?「誰かと関わりたい。」気持ちをアクションに移すべく、喉ぐすりを奪取し、棘に投げ渡す。そのまま、彼は呪言を唱え勝利を収める。二人は見つめる。スッと手を出し、「シャケ」と話しかける棘。憂太が彼と打ち解ける決定的瞬間に心揺さぶられた。王道でベタながらも、丁寧な連携、序盤に軽い修行シーンを挿入することで、憂太の成長が強固に描かれているといえよう。

親密になる彼らの前に、夏油傑一派が現れ宣戦布告される。夏油傑の目的は乙骨憂太を殺害し、里香の呪霊を強奪することだった。東京と京都で百鬼夜行が開催され、五条悟たちは新宿に集結する。一方で、憂太は真希と共に学校で留守番することとなる。しかし、それは罠だった。陽動作戦であり、手薄となった学校に夏油傑が憂太を殺害しにやってくるのだ。

特級呪詛師、故血祭りに挙げられる真希。応援に来た、棘、パンダも戦闘不能に陥ってしまう。仲間を失った憂太は、棘の「逃げろ」という忠告を振り切って戦うこととなる。

ここにてハイスピードな戦いが展開される。新宿では最強と名高い五条悟に対してミゲルと愉快な呪いたちの乱戦を中心に、アニメ1期に登場したキャラクターたちの多彩な連携プレイが見られる。一方で、東京都立呪術高等専門学校では個による壮絶な死闘が繰り広げられる。戦いの中で憂太は、瞬間移動がごとく彼の間合いに入り、里香の呪霊の豪快な破壊の狭間で繊細な一撃を加えていく。また、彼の内なる他者への憧れをも「呪い」として取り込み、親友・棘の呪言をも使いこなすのだ。アニメ1期の個のぶつかり合いを期待する者はこのアクションに燃えるであろう。また、新宿の乱戦と交差させることでアクションにメリハリがついており、飽きることがない。

ここは好き嫌い分かれる場面であるが、戦闘がインフレーションしがちな本作において意図的に魅せない演出が施されている。本作では憂太が傑を倒す瞬間を直接描いていない。波動砲のようなものを放つと、次の場面では傑が血だらけとなっているのだ。これは、直接倒される瞬間を描くことで、アクションに対する頭打ちが見えてしまいがっかりしてしまうことへの回避策ともいえよう。

これは思わぬ形で反復され、五条悟が傑に対して敵にもかかわらず救いの手を差し伸べる。その場面で悟から発せられる言葉は、観客に聞こえないようになっている。観る者は彼の口元を見ながら、彼が何を言ったのかを想像する。救いの手に余白を設けることで、映画に深みが増すのだ。つまり、他者を傷つけてしまう能力を持つが集まる。それによって救われる者もいるが、合わずに去る者もいる。マイノリティの中でさらにマイノリティが生まれ、排除されそうになる。しかし、能力と向き合い、人に手を差し伸べることで平和が訪れることを作品の本質に持ってきている為、確かに五条悟によって夏油傑はトドメ刺されたがそこには少しばかりの優しさがあった。

これは、今世界がコロナで人々が孤独に陥り他者を傷付あってしまっている状況に対する状況。King Gnuの主題歌「一途」における「正しさを振りかざさないで 事実が理由を喰いちぎった」世界に対する処方箋ともいえる。人間誰しも、「呪い」がある。その呪いと向き合い、克服する。克服した者は、「呪い」抱える者に寄り添う。故に、私はこの映画の物語に感銘を受けました。

※映画.comより画像引用