SIBERIA(2020)
監督:アベル・フェラーラ
出演:ウィレム・デフォー、ドゥニア・シショフ、サイモン・マクバーニー、Cristina Chiriac、ダニエル・ヒメネス・カチョetc
評価:40点
私、アベル・フェラーラ好きなんですよ。
アベル・フェラーラ映画は確かに独りよがりな自慰映画の側面も強い。だけれども、神への信仰を忘れたかもしれない現代都市の中にクズを配置し、そのクズの片鱗に信仰を魅せていくスタイルは、映画が可能とする人間心理の外部化に極めて忠実だと思う。『Go Go Tales』における、火の車経営の風俗を持ち直すために宝クジに命をかけ、行方不明となってしまった億万長者の切符となったクジを血眼になって探した末に思わぬ場所から見つかる。その時のウィレム・デフォーの顔には神が宿っていた。また『4:44 地球最期の日』における、終末世界に分断されたアジア人にスカイプを使わせて、最期の別れの場を作り出すところに人間のひとつまみの優しさがあった。登場すると大抵ロクなことが起こらないウィレム・デフォーが出演しがちということで、私の評価もついつい甘くなる。
そんなアベル・フェラーラの新作『SIBERIA』を観ました。アベル・フェラーラ平常運転、世間評判は悪めですが果たしでどうでしょうか?
『SIBERIA』あらすじ
An exploration into the language of dreams.
訳:夢の言語への探求。
ウィレム・デフォーの深淵食堂
IMDbのあらすじにたった一言“An exploration into the language of dreams.”と添えられた本作は、確かにそれ以外にあらすじを説明仕様にない。言うなれば、『DEATH (TRUE)² / Air / まごころを、君に』の終盤の心象世界大洪水を90分魅せられるだけの映画だ。
シベリアの奥地でバーを営むクリント(ウィレム・デフォー)。彼の元にお客さんがやってくる。だが、クリントは相手の言葉は分からない。身振り手振り「これか?あれか?」と酒ビンを取り出しもてなす。孤独の僻地において、お客さんが来るだけで癒しなのだ。
寒い中、暗い中、独りでいると、様々な思索が頭を過ぎる。それは時空の概念を歪める。観客に提示されるのは、そんなクリントの虚実曖昧な自問自答だ。突然、紅く光る洞窟にクリントが立ち、水辺に映る像と対話する。肉体的営みが突発的に行われたかと思えば、異郷の儀式に紛れ込む。
彼が踊ると、時空が変わるように空間に異変が生じる。陰鬱とした自問自答の中で生まれる微かな希望こそが人間を死から遠ざけているとアベル・フェラーラは説いていると推察することができます。
確かに視覚的魅力はあった。とはいっても、上半期に心象世界洪水映画としてエヴァを摂取してしまっている為か物足りなさを感じてしまった。アベル・フェラーラお得意のミニマムな作品だが、ミニマム過ぎて特に印象的な部分もなく消化不良ってところでした。無念。
※hollywoodreporterより画像引用
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