太陽は動かない(2020)
監督:羽住英一郎
出演:藤原竜也、竹内涼真、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、市原隼人、南沙良etc
評価:35点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
昨年、映画ファンを震撼させた「どーん!」予告編でお馴染み『太陽は動かない』が約1年の塩漬けの末に公開された。本作は吉田修一のスパイアクション小説「太陽は動かない」「森は知っている」の映画化で、登場するだけで暑苦しくなる藤原竜也が世界を股にかける産業スパイ役として大暴れするもの。映画ファンの多くは藤原竜也映画がお嫌いなようですが、自分は1年に1回藤原竜也をキメたいぐらい彼の演技が好きだ。「不思議の国のアリス」のようにルール破綻したデスゲームや常軌を逸した内容であっても迫真の演技で世界観に適応してしまう彼。カイジなんか、原作とは乖離したビジュアルなのに藤原竜也=カイジという方程式を作ってしまうほどの溶け込み具合。これはもっと評価されるべきでしょう。そんな彼の新作となれば映画館で観ない訳には行きません。
どうやらWOWOWのドラマシリーズありきらしいので観てないと訳が分からないらしいが問答無用観てきました。尚、ネタバレ感想です。
『太陽は動かない』あらすじ
「怒り」「悪人」などで知られる吉田修一のスパイアクション小説「太陽は動かない」「森は知っている」を藤原竜也主演で映画化。謎の秘密組織AN通信。この組織に属するエージェントは心臓に爆弾が埋め込まれ、24時間ごとに死の危険が迫まるという。エージェントの鷹野は相棒の田岡とともに、死の危険を抱えながら「全人類の未来を決める次世代エネルギー」の極秘情報をめぐって、各国のエージェントたちとの命がけの頭脳戦を繰り広げる。鷹野役の藤原、田岡役の竹内涼真のほか、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、佐藤浩市、市原隼人、南沙良、日向亘、加藤清史郎らが脇を固める。監督は「海猿」「暗殺教室」「MOZU」など数多くのヒットシリーズを手がける羽住英一郎。
あの二段階認証なんだ?
日本映画で007やボーンシリーズのようなスパイ映画ってできるのだろうか?多くの映画ファンは過去のジャパニーズ超大作を脳裏にチラつかせながら疑問に思うであろう。
ただ、これに関しては良いです。驚くほど上手いです。最近はアクションスタントの体制が整っているせいだろうか?配給が実写版『るろうに剣心』を成功させたワーナーだからなのだろうか?ブルガリア、香港、ロシア、インドと世界を転々とし世界観を創造しながら、アクションに緩急つけていく演出が光ります。
冒頭、拷問されているものを救助する場面から始まり、バイク、車、肉弾戦を多角的に折り込み、制限時間内にスマホで報告するタイムリミットを意識させることでアクションに緊迫感があります。くどいぐらい二段階認証が突破できない様子を描くことでスパイの泥臭さがよく表現できています。
また、列車の狭い空間を使ったアクションは『007 ロシアより愛をこめて』を参考にしているのだが、見事に自分たちのアクションに翻訳してみせ、開いた扉に向かって敵を蹴り飛ばし、信号に顔面激突させて撃退する演出はカッコいいものがありました。
『TENET』がスパイ映画として重要な土地に対する愛着を擦り込み忘れていたのに対して、『太陽は動かない』はその土地特有の空気感を醸し出した上でアクションをやっているのでワクワクが持続します。スパイ映画としての基本を丁寧に描いていると言える。
ただ、一方でそんな魅力的なスパイアクションを台無しにするものがある。それはサブプロットである藤原竜也演じる一彦がスパイになるまでの過程だ。スパイ映画の魅力は(ジョン・ル・カレものは除く)、敏腕な主人公がなんだかよく分からないけれど巨大な陰謀の中頑張っているところにある。細部を描くよりもダイナミックに描くことが重要で世界観を信じ込ませるハッタリが必要だ。『太陽は動かない』の場合、サブプロットで一彦の過去を語り過ぎだ。片田舎で閉塞の壁の外側に出ようとする彼の淡い恋、友情、そして困難が描かれるのだが、それが藤原竜也がこれからアクションしようとするところで邪魔するように挿入されてくるのだ。
その度に、我々は壮大なスケールを矮小化されてしまい困惑する。おまけに、このサブプロットが『ゲームセンターCX THE MOVIE 1986 マイティボンジャック』並みにどうでも良く絶望的に退屈なのです。これこそWOWOWのドラマシリーズで番外編として処理するべきなのではないでしょうか?原作にあったとしても、藤原竜也が折角頑張っている横で盛り込む話ではありません。
こういうのを「二兎を追う者は一兎をも得ず」と言います。「課長 島耕作」と「学生 島耕作」を同時に映画化して失敗するようなものです。この絶望的な粗がハッタリという名のメッキを剥がしてしまう。
例えば、本作では1日1回本部に報告しないと爆死するのだが、その報告を行うにはセキュリティコードとパスワードが必要だ。映画の世界でも二段階認証がポピュラーになってきたのかと思っていると、明らかに二段階認証としておかしいことに気づく。二段階認証は、複数の認証方法を試すことでセキュリティ向上を図るものだ。てっきり、セキュリティコードはワンタイムパスワードとして、報告する直前に特殊な端末等を使って入手したパスワードを使っているのかと思っていたら、そういう場面がない。そして公衆電話で既に知っているであろうセキュリティコードを入力しているのだ。これってパスワードを同じ端末で二回打っているのに等しくセキュリティ的にあまり効果がなく、ただ報告が煩雑になっているだけである。
サブプロットが悲惨なせいで、本来ハッタリで誤魔化せる粗にまで目がいってしまうのは本作が失敗であることを物語っています。
それにしても、こんな内容で去年「どーん!」と連呼する予告編を作った人がなかなか狂っているなと思う。結局、「どーん!」のシーンは映画のほんの一部の地味シーンであった。
藤原竜也は摂取できたが、彼に甘い私もモヤモヤが残る映画でした。
※映画.comより画像引用