カイエ・デュ・シネマベストテン2020発表 1位はF.ワイズマン『City Hall』
今年もこの季節がやって来ました。毎回、トリッキーでわかるようなわからないようなベストを出してくるカイエ・デュ・シネマの2020年ベストが出ました。昨年は買収騒ぎがあったせいなのか?読者に媚びようとしたのか、『ジョーカー/ジョーカー』や『アイリッシュマン』といった映画秘宝寄りのベストだったのですが、結局その後編集部は解散し、リベラシオンの映画評論家Marcos Uzalが編集長に就任する新体制となりました。とはいえ、フランス映画界の好きな映画は大差なく、相変わらずホン・サンスやフィリップ・ガレルに甘々なベストテンが出来上がりました。
もくじ
1.City Hall(フレデリック・ワイズマン)
カイエ ・デュ・シネマがフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリーを選出するのは前代未聞だ。フレデリック・ワイズマンがボストン市と市民との関係をモザイク状に並べた4時間半に及ぶドキュメンタリーがどうも刺さったようです。AlloCinéのレビュー抜粋では次のように語られています。Par sa clarté, son montage au allures de porte tournante qui ventile cent fonctions politiques à l’échelle d’une cité, City Hall constitue le point d’orgue d’une filmographie délaissant toute posture politicienne pour se pencher sur une question : qu’est-ce que le « public » ?
訳:その明快さと、都市全体の規模で100の政治的機能を分解する回転ドアのようなモンタージュによって、「シティ・ホール」は、「公共」とは何かという問いに対して、すべての政治的姿勢を放棄したフィルモグラフィーの集大成であると言えるだろう。
日本ではどうしてもワイズマンの作品は上映時間が長いこともあり、2年後以降に公開されるタイムラグがあるのですがこれは観たいところ。
2.逃げた女(ホン・サンス)
新体制になってもホン・サンス愛は止まらないということはフランス映画界はすっかり、彼の虜になっているということなんだろう。ある女が旧友を訪ね歩く、その間の面白さだけで押し切る本作は、ベルリン国際映画祭や東京フィルメックスでも賞賛されました。確かに猫を捉える奇跡的なカメラワークは面白かったと思う。3.アンカット・ダイヤモンド(サフディ兄弟)
ヒッチコックやホークスといった俗ながらも演出を極めた作品というのは、映画を勉強したり研究すると取り憑かれていくもの。ここ最近は、社会派要素をいかに映画の中に投影させるのかが主流となっていますが、サフディ兄弟はヒッチコック/ホークス路線の演出の美学で至極のエンターテイメントを作り上げました。カイエ ・デュ・シネマは『グッド・タイム』の時に既にサフディ兄弟を評価していましたが、新体制になっても普通にランクインしました。4.Malmkrog(クリスティ・プイウ)
『シエラネバダ』でも知られるルーマニアの鬼才クリスティ・プイウがベルリン国際映画祭を騒然とさせた3時間20分の作品。『シエラネバダ』同様、一つの家に地主、政治家、伯爵夫人、将軍夫妻が集まりひたすら白熱議論を繰り広げていく作品とのこと。AlloCinéのレビュー抜粋では次のように語られています。Le cinquième long métrage de Cristi Puiu […] se révèle ainsi entièrement constitué de longues conversations, poussées à un tel point d’éloquence et de contorsions dialectiques qu’elles finissent par donner le vertige.
訳:クリスティ・プイウ監督の長編5作目は、雄弁で弁証法的な長い会話で構成されており、めまいがするほどだ。
5.ラヴ・アフェアズ(エマニュエル・ムレ)
東京国際映画祭でも上映されたラブロマンス。Filmarksの評価は普通なのですが、AlloCinéの批評家星評を読むと、32媒体中30媒体が星4以上をつけている高評価となっています。愛の中で受け入れられることによる変化と、それに気づく驚きが面白いとカイエは評価しています。6.川沿いのホテル(ホン・サンス)
ブンブンシネマランキング2018にて10位に輝いたホン・サンス映画。ホン・サンス映画は毎回奇妙で面白いが、そこまで持ち上げる必要ない気がするといつも思っている私ですら驚愕した、空間を使った恋愛喜劇の技が光る大傑作です。これこそ日本公開すべきなのに、2年経った今時点で公開の目処がたっていない悲しい作品であります。7.春江水暖(グー・シャオガン)
ブンブンシネマランキング2019にて10位に輝いたデビュー作にしてトンデモナイ才能を発揮したグー・シャオガン監督作。ロングショットで絵巻物のように中国の変わりゆく社会を捉えた作品だが、2時間半かけて描いたこの物語はまだ第一部に過ぎないとのこと。今後化けると思われる中国の奇才をカイエも黙ってみてはいませんでした。8.The Salt of Tears(フィリップ・ガレル)
フランスの映画評論家はフィリップ・ガレルに溺愛している為、体制変更があれども余裕で受験のためにパリに上京した青年の恋話らしい。いつも通り、白黒な画にアンニュイさと洗練されたショットを叩き込むだけの映画に見えるが果たして…9.Énorme(ソフィー・レトゥヌール)
『ソーリー・エンジェル』に出演している俳優ソフィー・レトゥヌール監督作。世界を旅するピアニストとその夫が子どもを授からないと決めていたが、飛行機でサプライズ出産を見たことから心揺さぶられるコメディ映画。大衆コメディでありながらも独創的なコメディを生み出す実験室として映画を作り上げてきたことが評価に繋がったとのこと。10.8月のエバ(ホナス・トルエバ)
昨年のラテンビート映画祭で上映された作品。8月のバカンスにマドリードに留まることを決めたエバの出会いを描く作品。どうも今年のフランスは傑作バカンス映画がなかったようでスペインからバカンス映画をチョイスしてきたようです。ブロトピ:映画ブログ更新しました!