【東京フィルメックス2019】『春江水暖』審査員特別賞受賞!2020年代最重要監督グー・シャオガン

春江水暖(2019)
Dwelling in the Fuchun Mountains

監督:グー・シャオガン

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨日、東京フィルメックス受賞結果が発表されました。

第20回東京フィルメックス受賞結果

・最優秀賞:気球(ペマツェテン)

・審査員特別賞:春江水暖(グー・シャオガン)
・スペシャル・メンション:
1.昨夜、あなたが微笑んでいた(ニアン・カヴィッチ)
2.つつんで、ひらいて(広瀬奈々子)

・観客賞:静かな雨(中川龍太郎)

・学生審査員賞:昨夜、あなたが微笑んでいた(ニアン・カヴィッチ)

この中で、審査員特別賞を受賞した作品『春江水暖』を観ました。本作品はグー・シャオガン監督デビュー作で、出演者の多くが彼の親戚という超インディーズ映画ながら、いきなりカンヌ国際映画祭批評家週間に選出された作品。大きな映画祭で受賞していないこともあり、通常であれば日本に入ってくることがないのですが、東京フィルメックス番組選定プロデューサーの市山尚三が、自ら字幕までこしらえて持ってきてくれたおかげで奇跡的に日本で観られることとなりました。これが監督1作目とは思えない程の圧倒的作劇で衝撃を受けました。

『春江水暖』あらすじ


杭州の富陽の美しい自然を背景に、一つの家族の変遷を悠然と描いたグー・シャオガンの監督デビュー作。絵巻物を鑑賞しているかのような横移動のカメラワークが鮮烈な印象を残す。カンヌ映画祭批評家週間のクロージングを飾った。
※東京フィルメックスサイトより引用

長回しの圧倒的手数に痺れる

長回しと聞くと、多くの映画の場合、数種類の撮り方でずっと役者を撮っていくイメージがある。しかしながら、本作は、びっくりするぐらい多彩な長回しを見せてくる。冒頭、レストランでおばあちゃんを祝う場面は、じっくりじっくり宴を撮っていき、宴の楽しさを余すことなくスクリーンに染み込ませている。そしてある場面では、レストランの外側から撮影し、横移動で内部で巻き起こる騒動を観察している。別の場面では、ゆっくりゆっくりと河を映し出していき、段々と泳いでいる人へフォーカスが当たってくる。動く水墨画のように、大自然の小さな隙間で蠢く人をも映し出す。

一つの映画でこれだけ多彩な長回しを魅せてくるとは驚きである。監督はデビュー作に自分の中にあるもの全てを吐き出すというのだが、まるで仙人のように落ち着いて作劇故、既に巨匠の晩年の作品の域に達していました。タイトルの『春江水暖』は詩人・蘇軾(スー・シ)の詩のタイトルや朱玄仙の絵画の題名にもなっている言葉。動物のみが感じ取れる、水の繊細な温度というものを、本作では移りゆく人間関係に重ね合わせていると言えます。

都市開発が進む杭州の富陽。建物は次々と取り壊され、新しい街づくりの為に活気付いている。そこにあるレストランの一族の生き様が映し出される。ダウン症の子どもを抱える男は、親戚から金をせびるが、投資に失敗し、金が返せなくなり、家族から疎まれている。しかし、そんな彼だけがおばあちゃんのことを心から思っていた。おばあちゃんもそんな彼が好きなのだが、周りの親戚や金を貸した者はフラストレーションを募らせていき、隙あれば彼を攻撃するのだ。それは長い年月かけて段々と、男が成長していきそれによって癒えてくる。

都市開発による解体、再構築に、家族の崩壊と復活がシンクロしてくる。そのゆっくりとした変化を表現する為に持ち込まれた長回しは説得力を帯びている。そして驚くべきことに、2時間半かけて紡ぎ出した中国家族の肖像は、《第一部完》とプルーストも衝撃なエンディングで幕を閉じる。この圧倒的才能、グー・シャオガンは20120年に本格的に覚醒する監督だと断言してもよいでしょう。何気なくチケットを取って、予告編もロクにチェックしないで観た映画が場外ホームランだと嬉しい。

協賛からキノフィルムズが突然抜けて、窮地に立たされた東京フィルメックスでありましたが、作品選定は相変わらず鋭いなと感じました。

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