『ローラ』フォロワーからのリクエスト!『女と男のいる舗道』の対岸にいる存在

ローラ(1960)
LOLA

監督:ジャック・ドゥミ
出演:ジャック・アルダン、アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、コリンヌ・マルシャンetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、『ハウス・ジャック・ビルト』のトークショーを行った際に、お客さんから差し入れでジャック・ドゥミの『ローラ』DVDを頂きました。「『死ぬまでに観たい映画1001本』コンプリート頑張ってくださいね」と手渡された『ローラ』。これはフルマラソン頑張らねばと観てみました。ジャック・ドゥミは好きで、男性が妊娠してしまう『モン・パリ』なんか大好きなのですが、実は『ローラ』は未見だったのです。これが面白い化学反応を感じる作品でありました。

『ローラ』あらすじ


フランスの名匠ジャック・ドゥミが1961年に発表した長編デビュー作で、初恋の男性を待ち続ける踊り子ローラを中心に繰り広げられる恋愛模様を情緒豊かに描いた名作ラブストーリー。フランス西部の港町ナント。キャバレーの踊り子として生計を立てるシングルマザーのローラは、7年前に姿を消した恋人ミシェルの帰りを未だに待ち続けていた。ある日彼女は、幼なじみの青年ローランと10年ぶりに再会する。ローランは初恋相手であるローラへの変わらぬ思いを確信し、彼女に愛を告白するが……。ローラ役に「甘い生活」のアヌーク・エーメ。
※映画.comより引用

『女と男のいる舗道』の対岸にいる存在

ローラとはファム・ファタールのアイコンとして使われる名前である。例えばウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』がある。

ロリータ、わが生命のともしび、わが肉のほむら。わが罪、わが魂。ロ、リー、タ。舌のさきが口蓋を三歩進んで、三歩目に軽く歯にあたる。ロ。リー。タ。朝、ソックスを片方だけはきかけて立つ四フィート十インチの彼女はロだ。ただのロだ。スラックスをはくとローラだ。学校ではドリーだ。しかし、わたしの胸に抱かれるときの彼女はいつもロリータだ。

12歳の少女ロリータに惚れてしまった中年おっさんのハンバートが彼女に翻弄される様を官能的な文体で描いた名作だ。彼女の別名がローラであり、それが映画の世界にも伝播していったように思えます。男のハートを十年にも渡って鷲掴みにした踊り子ローラの彷徨いを描いた本作然り、『ローラ殺人事件』、さらには『ツイン・ピークス』におけるローラにまで影響を与えている。タレントのローラにも何故か魔性のオーラが宿っており、《ローラ》という単語には全国共通の危険な魅力に溢れているのではと考えてしまうもの。

さて、ジャック・ドゥミのデビュー作である本作は、既に後の『シェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たち』の面影を感じる。内容こそは、ファム・ファタールものであり、魔性の女ローラに翻弄される男たちの悲哀が描かれているのだが、唐突にダンスにフォーカスが当たったり、ミシェル・ルグランの軽快な音楽が流れ、男にしてはたまったもんじゃない振り回され劇にも関わらずシリアスさを感じない。しかも、映画の舞台はほとんどが昼間で、まるでヴァカンス映画のような清々しさを感じます。この清々しさ、爽快さは、ゴダール映画の中でCOOLなショットを決めるラウル・クタールのマックス・オフュルスに捧げたカメラに起因する。「舐めるように撮る」という手法の礎を築いたであろうオフュルスの建物を長回しで捉えていく様子がここで再現されており、登場人物を追跡するようにカメラは動き、画面が絵画的構造に収まるポイントで静止する職人芸に観る者は無意識に爽快さを抱くことでしょう。

そんな本作に嫉妬したゴダールは、恐らく『女と男のいる舗道』で意識的に『ローラ』を脱構築しています。撮影監督にラウル・クタールを抜擢し、音楽にミシェル・ルグランを抜擢する。そして『ローラ』の冒頭がカフェの中で正面を向いて駄話をするのに対して、こちらは背中で語る。そして夜のシーンを描き、映画館で観た作品について語る。『ローラ』に広がる行間をゴダールは埋めようとしていたのではないだろうか?

『ローラ』は、帰ってくるはずもない王子様を待ち侘び、彼女を求める男たちは遊ぶだけ遊んで翻弄する。ゴダールは『女と男のいる舗道』の中でミシェル・ド・モンテーニュの言葉

Il faut se prêter aux autres et se donner à soi-même
他人に自己を貸すことは必要だが、自己自身に対してでしか自己を与えてはならない

を借りる。魔性の女の《魔性》とは自己を貸し出すことで滲み出ていくものではないのか?と分析しているように見えます。目まぐるしく場面が変わり、ポップだが容易に理解し難い複雑な恋模様は、激しい引用と暗号で魔界としているゴダールの作品と重ね合わせることで、謎が解けていく。まるで暗号鍵のような作品でした。

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