【東京国際映画祭】『デリート・ヒストリー』情弱がいっぱい、不快もいっぱい

デリート・ヒストリー(2020)
原題:Effacer l’historique
英題:Delete History

監督:ブノワ・ドゥレピーヌ、ギュスタヴ・ケルヴェン
出演:デニス・オヘア、ブノワ・ポールヴールド、ヨランド・モローetc

評価:45点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第70回ベルリン国際映画祭にて70周年ベルリナーレ賞(銀熊賞)を受賞した『デリート・ヒストリー』が第33回東京国際映画祭にやってきたので観ました。映画仲間が「絶句するほどに酷い」と語っていたので身構えていたのですが、そこまでダメージは大きくありませんでした。ただ、これはアメリカで、特にトッド・フィリップスあたりでリメイクされたら面白くなる作品だなと思いました。

『デリート・ヒストリー』あらすじ


郊外の低所得者向け地域に暮らす人々。ネット社会に踊らされ、みんな金の問題に縛られている。彼らが我慢の限界に達した時、無謀な報復作戦が決行される! ネットが格差社会に及ぼす弊害を描く社会派コメディ。
※東京国際映画祭サイトより引用

情弱がいっぱい、不快もいっぱい

昨今、デジタル・ディバイドが深刻化している。PCやスマホ、各種ネットサービスを使いこなして得する人と、それが使いこなせず搾取される人とが二極化されている。ITを使いこなす能力は、環境に依存し十分な教育が得られないと後者に転落してしまう。このコメディは、IT教育が軽視され、今や日本の教育現場で正式な情報科教員を雇わず、数学教師やPCオタクの教師にやらせてしまっているIT教育後進国日本にとって笑えない代物である。

本作は、情弱が招く災難や騒動を所狭しと並べていく。例えば、あるサイトにログインしようとしたら、IDが必要となり、一生懸命冷蔵庫の中に貼ってあるIDの中から正解を探す。やっとの事で見つけたIDを入力すると、今度はパスワードが分からない。パスワードを再発行してもらうために、電話をするのだが、なかなか繋がらない上に、待っている時間料金が発生してしまう。完全に損をしているのだ。また、無料のウイルス対策ソフトを入れるのに、月額十何ユーロかの契約をさせられたり、スマホ依存でなかなか寝ることができず、充電が切れそうになるもんだからスパゲッティのように絡まった充電器の中から正解を探し出そうとしはじめる。『わたしは、ダニエル・ブレイク』で描かれているような、テクノロジーという抽象的で感覚的なものを使いこなせず、情報整理もできないが故にひたすら損をしていきフラストレーションを募らせていく様子をコミカルに描いているのだが、どうも情弱を見下しているような鼻につく演出が肌に合わない。

これがアメリカンコメディとして描かれたらもっと、豪快豪傑に不器用をカリカチュア化し、ある意味多様性の仲間としてこの問題を認める方向にいくのだと思うのだが、どうもこの映画は「情弱はこんなにも頭悪いんだぜ」と言いたそうな香りがしていて嫌な感じがする。自分がIT企業で、分かっている人の分かっていない人に対する嫌な目線を痛いほど知っているので、この映画はなかなかキツいものがありました。

とはいえ、終盤にかけて『SEXテープ』を彷彿とさせる豪快な展開を魅せているので、このアメリカンコメディ的後半は評価すべきポイントかなと思いました。

※東京国際映画祭サイトより画像引用

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