【ネタバレ考察】『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』第四の壁の華麗なる破り方

映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!(2020)

出演:花田ゆういちろう、小野あつこ、福尾誠、秋元杏月、小林よしひさ、上原りさ、横山だいすけ、賀来賢人etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2018年に約60年の時を経て初めて映画化された『おかあさんといっしょ』。公開当時、日本映画クラスタのシネフィルですらほとんど観ていなかった作品なのですが、独身男性であるブンブンが潜入調査を敢行し、ゴダールもビックリな超絶技巧の数々に圧倒されました。子供向け映画は、シネフィルや映画評論家がありがたそうに使う映画技術をいとも簡単に、常識ですよと言わんばかりに使う。当然ながら、第四の壁破りはするのですが、インターミッションが幼児の体感時間を考慮して6分と絶妙な時間配分となっていたり、映画のラストには記念撮影時間が設けられていたりと映画の概念をトコトン破壊していく作りになっていました。

今回、世間では『キャッツ』で阿鼻叫喚となっている横でひっそりと公開された劇場版第二弾をこれまたソロで潜入調査してきました。前作よりもパワーアップしていたのでネタバレありでその凄さをリポートしていきます。

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『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』あらすじ


1959年から放送され60周年を迎えたNHKの長寿子ども向け番組「おかあさんといっしょ」の映画化第2弾。ゆういちろうお兄さん、あつこお姉さん、誠お兄さん、杏月お姉さんが、久しぶりによしお兄さんと再会し、「ブンバ・ボーン!」で遊んでいたところ、よしお兄さんが突然ある動物になってしまう。それは、《すりかえかめん》とすりかえお嬢のしわざだった。2人のイタズラはどんどんスケールアップし、チョロミー、ムームー、ガラピコもすりかえられてしまい……。2019年3月をもって番組を卒業したよしお兄さん(小林よしひさ)、りさお姉さん(上原りさ)が出演し、2人が番組内で扮していたキャラクター「すりかえ仮面」と「すりかえお嬢」が登場。さらに、先代のうたのお兄さんである横山だいすけも出演。俳優の賀来賢人が謎のキャラクターでゲスト出演する。
映画.comより引用

第四の壁の華麗なる破り方

前作は複数のミニエピソードからなる作品であった。しかし、今回はインターミッションなしの60分一本勝負で挑んできました。そしてこれが非常にストイックな原始的映画撮影をベースに所々、驚きの手法を魅せてくるこれまたビックリ箱映画でありました。また、例の如く第四の壁破りで会場の子どもたちを上げに上げていきます。チョロミー、ムームー、ガラピコがレディース&ジェントルメンと劇場に来てくれたことを感謝し、一緒に最後まで楽しもう!と約束を交わす。そして、お兄さん、お姉さんにバトンを渡す。

そして、『ヤッホ・ホー』、『パンダ うさぎ コアラ』とアップテンポな曲で会場の熱量を上げていく。まずまずのセットリストだ。カメラワークは子どもたちが混乱しないように基本的にフィックス。そして被写体を正面から捉える。カットを割る時も、登場人物の視線は客席に向くようにし、ここぞと言う時以外はトリッキーなショットを封印している。そのストイックさ故に、『ヤッホ・ホー』においてお兄さん、お姉さんが山の方を振り返りヤッホーと叫ぶ様子を下から撮ったり、観客にヤッホーと叫ばせ、遠くまで声が伝播したことを表現する、遠巻きのショットが強調される。太鼓昔のサイレント映画のようにフィックスながら動きがあり画面に魅入ってしまうような撮り方を実践しているのです。

そうこうしているうちに、今回のヴィラン《すりかえかめん》とその相棒お嬢が出現する。そしてタイトル映像『映画 おかあさんといっしょ すりかえかめんをつかまえろ!』を《映画 すりかえかめんといっしょ にゃっはは〜!》にすりかえてしまう。どうやらこの映画は、映画の中心に誰が立つのかの主導権を巡る戦いになるようだ。映画は、現実世界とアニメ世界をシームレスに切り替えていく。《すりかえかめん》コンビは両方の世界を交互に移動して次々と攻撃を仕掛けていくのだ。実写サイドでは、街の風景をすりかえてしまう。お兄さん、お姉さんはクイズに答えないといけない。ここで観客参加型の間違い探しが開催される。3箇所、街の風景を別のオブジェクトに変えてしまったとのことだ。この難易度設定が秀逸で、簡単、ちょいムズ、激ムズの3種類が一つの画面で提示されるのだ。ブンブンはなめていました。最後の一つがわからなかったのです。Twitterの140字ですらよく誤字をやらかすブンブンからすると、木に擬態していたブロッコリーの存在に気づくわけがありません。《すりかえかめん》、なかなかの強敵だなと感心してしまう。

さて、アニメパートでは《すりかえかめん》はチョロミーとムームーの色彩を強奪してしまう。困った彼らは、ガラピコの提案で色を集めることにする。ここで、非常にユニークな第四の壁破りを魅せてくれるのだ。彼らは会場に呼びかける。

「僕たちの色を持っていたら魅せてくれ!」

会場からはポップコーンや靴やらを提示して、彼らを救おうとする。第四の壁破りが前座の掛け声以外にも使い道があることを『おかあさんといっしょ』は証明して魅せたのだ。第四の壁破りの技法を探求している子ども映画の中でも、一歩先の世界に飛び込んだと言える。後述するが、その伸び代はまだまだ遠くへといく。

さて、ここで小野あつこのスクリューボールコメディのヒロイン的仕草に着目しよう。食いしん坊でマイペースな彼女は、物語に変調をもたらす破壊者として君臨する。常識破りで破天荒な彼女は『赤ちゃん教育』のスーザンに匹敵する、でも胸糞が悪くなるスーザンとは違い愛らしい破壊屋を演じて魅せるのです。《すりかえかめん》を探そうと屋敷にやってくるのだが、何故か彼女はたこ焼きを片手に屋敷と対峙する。そして《すりかえかめん》を追い、階段を昇るのですが、ショットが切り替わった途端、たこ焼きは消滅しているのです。そして《すりかえかめん》と対峙する。彼は「おティーを嗜んでいます」と煽るのですが、彼女は「では、たこ焼きをどうぞ」と空っぽになったたこ焼きの受け皿を差し出し、「ごっめーん。食べちゃったわ。」とボケをかますのです。彼女は終始そんな感じで、《すりかえかめん》が土星の輪っかをバームクーヘンに変えてしまうものなら、「そんなには食べられないよ」と彼の悪行を無にしてしまう発言を繰り返すのだ。目的を持って悪さをする彼。しかし、その目的すら理解しない。その無理解さで《すりかえかめん》を追い詰めていく様子は痛快で堪りません。

そして本作は、《すりかえかめん》の行動原理を分析することで、いたずらっ子の行動心理を解き明かし、彼らの心の底にある孤独を癒す方法を提示する非常に高度で深い物語と発展していきます。中盤から、物語の主人公は《すりかえかめん》に移っていく。悪行は割と成功しているのだが、何故か彼の身体が透明になってしまい今にも死にそうな様を魅せ始めるのです。そこへ、彼の先輩《いれかえまん》が姿を表す。《すりかえかめん》は、人から忘れ去られると存在が消えてしまう運命にあると説明される。子どもが大人になると、子どもの頃の記憶が失われる過程で《すりかえかめん》は消滅する運命にあると言われるのだ。

まさしく、『インサイド・ヘッド』や『リメンバー・ミー』における死である。『おかあさんといっしょ』の世界では肉体的死は無視されるので、いきなりもっと重い存在的死が押し寄せてくるのです。そして、《すりかえかめん》は考える。どうしたら忘れられないのか。ここで更に斬新な第四の壁の使われ方をする。《すりかえかめん》は劇場にいるお父さんお母さんに魔法をかけ、猫にするのだ。彼の右腕・お嬢が会場に語りかける。「お父さん、お母さんお願いです。彼に付き合ってあげて、猫になってください。」と。子どもを楽しませるために、お父さん、お母さんを共犯関係にしようと懇願し始めるのです。こんな第四の壁破り、映画史始まって以来観たことがあるだろうか?ブンブンはありません。そして、《すりかえかめん》は会場を思うように制圧できたことに満足すると、その様子に興奮した《いれかえまん》も俺も一枚噛ませてくれよとせがみ始める。そして、その流れで、名曲『こぶたぬきつねこ』を歌い始めるのです。この異常なミュージカル構成に感動を覚えました。

さて、段々と《すりかえかめん》《すりかえお嬢》の痛々しさが露見してきます。彼らは、構って欲しいのです。でもコミュニケーションの方法が分からない。具体的には、「遊ぼう!」、「仲間に入れて」と契約を結ぶ概念を知らないのでどのように仲間に入れてもらえばいいのか分からないことが明らかにされていくのです。そして、《すりかえかめん》は皆に忘れ去られてしまうという、承認欲求不満のどん底を知ってしまっているため、ムキになって世界を混沌に陥れようとするのだ。

先日観た、『プリズン・サークル』でコミュニケーション不全により倫理観がぶっ壊れてしまい、一人では修復困難になってしまっている受刑者の心理の底にあるものをここで感じます。そして、お兄さん、お姉さん、そしてガラピコたちは正しい契約の結び方を教えることで彼らを救うのです。幼少教育ないし、学校教育で必要なのは、共存。他者との共存が困難な者に如何にして共存する術を教えるのかが重要である。それを、コミカルに説教くさくなく演出して魅せる『おかあさんといっしょ』のパワフルさにすっかりノックアウトされました。

単にプログラムピクチャー的に作るのではなく、創意工夫で幼児の映画館デビューを手助けする演出。ブンブンは全力で評価したい。


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