【YIDFF2019】『島の兵隊』ミクロネシアとアメリカの恐ろしい関係

島の兵隊(2017)
ISLAND SOLDIER

監督:ネイサン・フィッチ

評価:80点

台風19号が迫っていた関係で、本当は10/12(土)に山形入りするつもりが、金曜日の夜に潜入することとなった。金曜日は、友人が手配してくれた宿舎に居候させてもらったため、土曜日に観る予定だった『理性』まで時間が空いてしまった。では、時間つぶしに何か観ようと思って調べたら、ミクロネシアの貴重なドキュメンタリーが観られるとのことで、山形市民会館小ホールに行きました。小ホールなのでパイプ椅子、フラット配置なので、前に人がいない場所を選ぶ必要があります。さて、YIDFF2019初日に鑑賞した『島の兵隊』について語っていきます。

『島の兵隊』あらすじ


The untold story of Micronesian citizens fighting America’s wars. Through the personal odyssey of the Nenas, one family experiences the consequences of military service, as they represent a pristine Pacific island on the brink of economic collapse.
訳:ミクロネシアの市民がアメリカの戦争と戦っている知られざる物語。ネナスの個人的な旅を通じて、ある家族は、経済崩壊の危機にonした原始的な太平洋の島を代表する兵役の結果を経験します。
imdbより引用

ミクロネシアとアメリカの恐ろしい関係

監督のネイサン・フィッチは、ニューヨークのブルックリンに拠点を置くジャーナリストです。彼の監督デビュー作にして、ミクロネシアとアメリカ軍の関係を描いた作品はSan Diego Asian Film Festivalで観客賞を受賞している。今回、《AM/NESIAアムネシア:オセアニアの忘れられた「群島」》という特集上映で日本お披露目となった。残念ながら、まだFilmarksには作品登録すらされていない珍しい作品でもある。

先日、グアムに行った際に現地ガイドさんから、「グアムの人は皆軍隊に入るの。米軍基地内はガソリンや食料品が安いからね。」という話を伺った。確かに映画館の割引にも《軍人割》というものがある点からもその優遇は感じとった。しかし、その小話はどうやら根深い問題を抱えているようだ。

607の島々から成り立つミクロネシア連邦の一つコスラエ島の事情にカメラは向けられる。軍用機で棺桶が村に運ばれてゆく。棺桶に収められている人物はサップ。彼はコスラエ島から米軍に入隊し、2010年にイラク戦線で命を落とした。丁度、仲間の一人が家族の看病によって戦線を離れることとなり、誰かがイラクに延長在留しないといけなくなった状態で、彼は重い腰をあげたのだ。その結果、帰らぬ人となった。そんな彼の周囲を中心に、コスラエ島とアメリカの関係が暴かれていきます。

第二次世界大戦が終わり、日本がコスラエ島を撤退すると、アメリカが島の経済管理を統括するようになる。アメリカは経済支援をコスラエ島を行う。コスラエ島の市民にとって、アメリカは不安定な島の環境を救ってくれる恩人のようなもの。アメリカは、その恩心に漬け込んで、定期的に軍人を供給できるようなシステムを作り上げた。福利厚生という甘い果実で、コスラエ島の若者を次々とヘッドハンティングし、過酷な戦地へと送り込んでいった。

その結果どうなるのか、島には働き手が減ってしまい、両親は老いた身体に鞭打ちながら引退できずに農業、漁業に従事し続けなければならなくなる。また、働き手がアメリカに取られてしまうことで、ソフトタロイモの作り方などといった文化や技術の継承がされなくなり、長期的に島が成長しない状態となってしまう。そして、全ての80%をアメリカに依存する社会となったコスラエ島に恐ろしい現実が突きつけられるのだ。それは2023年にアメリカの経済支援は打ち切られてしまうということである。アメリカファーストなドナルド・トランプになったせいだろうか、経済支援はしない、でも軍事統治は継続するという、アメリカが全ての旨味を獲得するようなシステムに変えていこうと舵を切ったのです。

このまま、経済支援を打ち切られると、コスラエ島、またミクロネシア全体が国家破綻する可能性がでてくる。福利厚生がいいと言われた軍人も、退役後の福利厚生は皆無に等しいので、島で使える人材にはならない。また、軍人の給料が島の基本給の10倍近く違うので、退役軍人はそのままアメリカに流出してしまう。壊滅的な人手不足と、経済難の波がすぐそばに迫っている。

一見、コスラエ島から米軍に所属し、戦地に行く者の苦悩を描いているように見せかけて、恐ろしいアメリカの搾取のシステムを暴いた凄まじい作品でした。

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