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【アンジェイ・ズラウスキー特集】『夜の第三部分』男は女の幻影を観てシラミ工場へ

【アンジェイ・ズラウスキー特集】『夜の第三部分』男は女の幻影を観てシラミ工場へ

夜の第三部分(1972)
Trzecia część nocy(1972)


監督:アンジェイ・ズラウスキー
出演:レシェック・テレシンスキー、
マウゴジャータ・ブラウネックetc

評価:70点


ポーランドの鬼才アンジェイ・ズラウスキー ブルーレイBOXに彼の長編デビュー作『夜の第三部分』が収録されていたので観てみた。アンジェイ・ワイダの『世代』に衝撃を受けて、映画監督を志したズラウスキーがワイダの助監督をする中で修行を行い、初めて作った作品がこれだ。ズラウスキーの父が書いた、自伝的小説を映画化したとのことだが果たして…

『夜の第三部分』あらすじ

家族がナチスに殺された。なんとか逃げ切った男は、街中で殺された妻の面影を宿した女性の出産に立ち会う。極限状態で彼らは惹かれ合う。彼はその女性と彼女の赤ちゃんを守るためにチフス研究所で働くことになり…

リアリズムがファンタジーの門を開く

アーティストは、デビュー作に自分の全てを投影させるといわれるが、ズラウスキーも例に漏れず自分の中に在るもの全てを本作にぶつけていた。作家一族に生まれたズラウスキーは、文学という文字から解き放たれるファンタジーに、インスピレーションを掻き立てられたのだろうか、デビュー作から混沌の寓話を作り出していた。

いきなり、ナチスに妻を殺されるシーンから始まる。目をかっぴらき血だらけになった妻が歩くシーンでギョッとする。そして、そのまま男の逃走シーンへ。これがメチャクチャ怖い。逃げ場のない街中を、男が逃げる。物陰に隠れ、そっと階段の方を観ると、ナチスが無慈悲に人を殺して殺して殺しまくる。行こうかと思うと、その先から血だらけの人がバタッと倒れてくる。

ズラウスキーは1940年生まれ。物心が着く頃には戦争は終わっていた。狂気の戦争の生々しさは父や大叔父等から伝聞でしか聞かされていなかったと思われる。しかしながら、ズラウスキーは徹底して悪夢の戦場を再現しようとした。荒涼とする街中、ほとんどナチスの顔を映さぬことで強調される不気味さ。これらは、フィックスのカメラでは表現できない。『シルバー・グローブ』同様、常に爆速で動き回るカメラによって、観客もろとも地獄の底へと引きずり込むのだ。

そしてズラウスキーはこの頃から既に、行きすぎたリアリズムによって開かれるファンタジーという作風を身につけていた。地獄を彷徨う男は、戦場で女の出産に立ち会う。敵に殺されるかもしれない。しかも、自分は医者でもなんでもない。そういう極限状態の中、女の瞳に殺された妻の残像を見出し、不器用ながらも手伝うことにする。そして、女を助けるとそのまま恋愛感情を抱き始める。彼女を守らねば!と。逃亡生活をする中、チフス研究所でシラミに血を吸わせる仕事に着く。

顕微鏡でシラミを拡大し、機械的に血を喰わせていくみたことも無い絵面、そして研究と称し、シラミを次々と真っ二つにしていく様子の気持ち悪さに度肝を抜かれる。

悪夢のようなシーンの連続で、観客を混沌の渦に放り込んだままラストまで駆け抜ける。これは現実なのか虚構なのかわからなくなっていく所にズラウスキーの才能がギラギラ光る。

観終わった後、あれはなんだったのだろうと考えてみた。恐らく、守る者の為に人はどこまでも残酷になれるという心理状況を100分ノンストップで描いた作品なんだろう。ナチスが無残に一般人を殺す、無残に。そこから逃げる男も、妻と子どもを守る為に機械的にシラミを苛め、無残に殺していく。人の残虐性が円環構造となっていたのだ。

ズラウスキー、意外と好きかもしれないと思ったブンブンでした。

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