めし(1951)
監督:成瀬巳喜男
出演:上原謙、原節子、島崎雪子etc
評価:80点
卒業旅行で林芙美子をテーマにして催行したものの、シネフィルとしては林芙美子映画を全然観ていなかったので「めし」をウォッチしてみた。
「めし」あらすじ
誰しもがうらやむ幸福な夫婦。しかし奥さんの岡本三千代は日々淡々と「めし」を作ることに嫌気がさしていた。そんな中、夫の里子が家出をして大阪にやってき、関係が乱れていく…
未完の小説の映画化!
成瀬巳喜男監督が林芙美子の未完の小説を映画化。なんと監修にあの「雪国」の川端康成の入れるガチ作品。
夫婦の倦怠期ものなのだが、かなり異色だ。特に海外なんかがこの手の映画を作ると、すぐさま感情のドッジボール、言葉のドッジボールになりがちだが、本作は原節子扮する岡本三千代の抑えに抑えた、今にも爆発しそうな鬱憤を臨界点ギリギリで保たせるスリリングな作品になっている。
証券マンと結ばれ、周りからも「羨ましいわ〜」と言われる主婦・岡本三千代が内心「毎日めしを作るだけの人生厭やわ」と絶望するところから始まる。夫もテキトーながらも一応妻を気遣うのだが、片手間で真の愛がない。でも夫はなかなか妻の気持ちが分からない。折角、里子とミニ旅行を企画するものの、「わたしはいいの」と当日ドタキャンを決め込む岡本三千代に「なんだこいつ」と思ってしまう。今みたいに女性がビシバシ言える時代ではない。男性社会故、自分の本当の気持ちが言えない。いや、抑圧されすぎて気持ちの伝え方が分からないが故のすれ違いがよく描けている。
そう聞くと、古くさく思えるが今にも通じるところがある。男は割かと、結婚するまでがゴールと考えがちで、結婚したら家族サービスを怠ったり熱が冷めたりする。一方、女は長期の愛を求める。その差異による軋轢が「倦怠」を生む。男としては、女性心理を知ることができる上に、結構ギクッとする描写もあるので現代にも十分通じる話題となっている。
そして互いに深まる軋轢。抑圧に抑圧を重ね、今にも狂いそうな岡本三千代にハラハラする。海外の映画に比べると、然程音楽もなく静的なのだが、ここまで手汗握るとは!そう、「めし」は極上のサスペンスでもあった!
古い作品だからと侮るなかれ、今でも気軽に楽しめる傑作でした。
コメントを残す