感想

2021映画

【MUBI】『The Seventh Walk』アミット・ダッタは絵画の立体機動装置だ

アミット・ダッタは、都会の喧騒とした時間の流れから逃れ、スピリチュアルな音楽と美しさを極めた自然や建築構造の中で絵画の再現を行い、強烈な没入感を与える。その催眠効果の五感に訴える世界は何も考えずとも楽しいものがある。

ただ、よくよく画を見つめているとアミット・ダッタによる巧妙な戦略が見えてくる。Paramjit SinghとGoogleで検索すると、印象派テイストの油絵が沢山出てくる。しかし、映画では木炭画を中心に据えてくる。息を飲むような後光差し込む森林と木炭画の陰影を対比させることで、Paramjit Singhの作品に立体感を与えていく。

2021映画

【MUBI】『波紋』セルビア、10年もの呪縛をもたらすタバコ

セルビア人兵士のマルコはボスニア、トレビニェに帰る。婚約者と会うために。マルコは親友のネボイシャと束の間の憩いを求めてカフェに訪れる。途中で小さなタバコ屋に立ち寄り「ドリナ」という銘柄を買った。その直後、タバコ屋に3人の兵士がやってくる。

「『ドリナ』を寄越せ!」

と横暴な態度で店員に話しかける。しかし、「ドリナ」はマルコが買ってしまった。売り切れだ。そのことにキレる兵士。IDを出せと威嚇し、しまいにはリンチを始める。その様子を見ていたマルコは勇敢にも彼らに立ち向かう。

2019映画

【OAFF2021】『ブラックミルク』ゲル生活のかけら

ドイツで長年生活したウェッシ(ウィゼマ・ボルヒュ)がモンゴルの妹オッシ(グンスマー・ツォグゾル)のいるゲルに帰郷する。妹は伝統的なルールに従って慎ましく生きるが、そのことでドイツ生活に慣れているウェッシと軋轢が生まれてしまう。監督の自伝的内容なのだが、撮影が難航しているためか断片的ヴィジュアルが並べられているだけだ。本作は恐らく、外国かぶれしてしまいモンゴルの伝統に溶け込めない自分を見つめ直す映画であり、『ブルックリン』のような心理的変化が紡がれることを期待していたのですが、ひたすらゲルの慎ましい伝統を映すだけで、映画祭に来る人のオリエンタリズムを満たすことだけに全振りしているのが致命的だと思う。

2021映画

【アカデミー賞】『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』タコvsサメ世紀の戦い

人生に疲れた男クレイグ・フォスターは精神を癒す為、南アフリカの海に毎日潜ることにする。彼の眼前には見たこともないような美しさが広がっており、彼は海の神秘に取り憑かれていく。

そんな中、彼はタコと出会う。殻を全身に身につけて防御したり、獲物を仕留める為に巧妙な技を駆使するタコに魅了された彼は、タコとコミュニケーションを取り始める。ただ、間合いが非常に難しく、中々思うように対話ができない。しかし、やがて彼の手にタコが触れコンタクトを取り始めた。これにより二人は友情や愛情を超えた関係に発展していく。

2021映画

【ネタバレ考察】『ブレイブ 群青戦記』高校生よこれは戦争だ!死と隣り合わせなのだ!

冒頭、よくある大衆映画にありがちな長い前置きを大幅にショートカットして、タイムスリップを強制発動させる。そして高校生の前に、落ち武者のような軍団が右から左から雪崩のように押し寄せて来て、高校生を皆殺しにする。そうです、時は戦国時代だ。情け無用弱肉強食の世界。高校生という安全圏は存在しない。原作はどうかわかりませんが、ここで本広克行は部活動を映画的に魅せるオーディションを開始する。映画として描いた際に、学校の華である野球部やサッカー部といった球技は魅力的に映すことが難しい。そこでサッカー部を無惨に抹殺する。そして野球部を球技担当として採用する。野球部にはボールとバットがある。これで戦ってもらうことにする。そして、格闘技系を硬め、その中心に科学部を配置することで文化系要素を追加するのだ。武器として映えないテニス部は潔く留守番させ、現代に戻るための装置作りの要員として動かす。