『Un peu avant minuit』《おじケア》映画の脱構築

Un peu avant minuit(2026)

監督:ニコラ・パリゼ
出演:メルヴィル・プポー、キアラ・マストロヤンニ etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

映画祭頻出ジャンルに《おじケア》映画がある。中年の危機、ないし実存の危機に陥るおじさんが女性やら友人に慰めてもらうような内容である。確かに誰しもが人生を歩む中で孤独となる。年齢を重ねるとその孤独を共有する相手は少なくなる。ケアされたい欲望を映画で叶える構図はよくわかる。しかし、2020年代の価値観で情けないおじさんがヨシヨシされる映画は賞を与えるに値するのだろうか。いやニーズはある、だが抑圧されたマイノリティに対する問題提起、それを映画といった形で行い評価する側面が強い映画祭の舞台で、そういった作品を差し置いて評価されることには抵抗がある。ただ、興味深いことにこのジャンルは男性の監督だけが撮っているわけでもないし、評価されることもある。

たとえば昨年のベルリン国際映画祭コンペティションに選出された『Ari』は女性監督レオノール・セライユによる作品だった。また、昨年のベネチア国際映画祭に選出されたキャリアチェンジをすれども立ち行かなくなる男を描いた『À pied d’œuvre』は脚本賞を受賞した。不思議な話だ。

閑話休題、今年のベネチア国際映画祭コンペティションにも《おじケア》映画があった。『Un peu avant minuit』である。『アリスと市長』にて、「不思議の国のアリス」を脱構築しながら公務員が巻き込まれる不条理を描いたニコラ・パリゼ監督の新作である。

『Un peu avant minuit』あらすじ

As he is about to separate from his partner, with whom he lives in Eastern France, 49-year-old Léo learns of the death of his biological father, whom he never knew. Before travelling to Italy to deal with the inheritance, he spends a few days in Paris to take stock of his life. Between conversations with his activist daughter and encounters with ghosts from his past, he begins to question his very existence, and, above all, his relationships with women.
訳:フランス東部でパートナーと暮らす49歳のレオは、関係を解消しようとしていた矢先、一度も会ったことのない実の父親の訃報を耳にする。遺産の手続きのためにイタリアへ向かう前、彼はこれまでの人生を見つめ直そうと、パリで数日間を過ごすことにする。活動家の娘との対話や、過去の亡霊たちとの遭遇を経て、彼は自身の存在そのもの、そして何よりも女性との関係について自問自答し始める。

※第83回ベネチア国際映画祭より引用

《おじケア》映画の脱構築

父が亡くなり、遺産相続のためにイタリアへ旅立つ前の数日間。レオ49歳はパリに滞在する。パリの街は機動隊がおり、何やら不穏な空気が流れている。そんな中、彼は娘や知り合いと会う。そして、女性たちとの対話の中で浮世離れした自己に気付かされる。

本作が興味深いのは、レオと女性がパリの街並みをひたすら歩くショットが反復されて描かれている点にある。長い対話の中で、その人の心の奥にある複雑な想いが表面化する演出は、『急に具合が悪くなる』でも観られるが、本作は次々と女性を変えて対話をしている。そして、一見するとよくあるおじさんがケアされる構図になっているのだが、女性たちから語られる言葉は彼の心を突きさす。娘からは家父長制の側面を指摘され、旧友の妻からは出版業界におけるセクハラによる被害を、かつてのインターン生からは郷愁的消費による問題点を突き付けられるのだ。

本作は映画祭の伝統的な《おじケア》映画のジャンルを通じて、男性優位な業界もとい常識となったことがいかに女性を苦しめているのかを長い会話の中で紐解いていく。そして、パリの街並みでは機動隊による暴力が行われているのにレオは特権的白人男性のようにその渦中の外側でなよなよしている様を通じて内省していくのである。

なるほど、映画としての広がりはあまりなく小ぢんまりとした作品ではあるが興味深い一本といえよう。