叛逆のサウンドトラック(2024)
Soundtrack to a Coup d’Etat
監督:ヨハン・グリモンプレ
出演:ルイ・アームストロング、ディジー・ガレスピー、アビー・リンカーンetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第97回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた”Soundtrack to a Coup d’Etat”が邦題『叛逆のサウンドトラック』で2026年8月7日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開が決まった。
本作は1960年にアフリカ17ヶ国もの国が独立をし《アフリカの年》と呼ばれた。
■独立した国
1.セネガル
2.モーリタニア
3.マリ
4.コートジボワール
5.ブルキナファソ
6.トーゴ
7.ダホメ(ベナン)
8.ニジェール
9.チャド
10.中央アフリカ
11.カメルーン
12.ガボン
13.コンゴ民主共和国
14.コンゴ共和国
15.マダガスカル
16.ナイジェリア
17.ソマリア
脱植民地化を記念する輝かしい時代の幕開けのように思えたが、政情は混迷を迎える。コンゴ民主共和国の指導者であるパトリス・ルムンバが暗殺されたのだ。この事件に抗議すべく、歌手のアビー・リンカーンとドラマーのマックス・ローチが国連安全保障理事会へ突入し欧米の脱植民地化を訴えた。
ハイジャック事件をどのようにメディアが報道・表象していったかをフッテージでもって論じる『ダイアル ヒ・ス・ト・リー』や国際武器取引の実態を暴いた『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』といったアーカイブ映像を用いて国際社会に鋭く斬り込むベルギーの監督ヨハン・グリモンプレがこの事件をジャズの歴史の観点から描いた。
今回、試写で一足早く観させていただいたので、レビューしていく。
『叛逆のサウンドトラック』あらすじ
1960年代のコンゴ動乱を題材に、音楽と政治が共鳴した「もうひとつの冷戦史」を描いたドキュメンタリー。第97回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。
1961年2月のある朝、歌手のアビー・リンカーンとドラマーのマックス・ローチは、独立したばかりのコンゴの首相パトリス・ルムンバが殺害されたことに抗議するため、国連安全保障理事会に突入した。約60人の抗議者たちが、不意をつかれた警備員たちにパンチを浴びせ、ピンヒールを叩きつけ、騒然とする会場を、ショックを受けた外交官たちは見守るだけだった。その瞬間、世界は「脱植民地化」という名の地殻変動に飲み込まれていく。尊厳、主権、自由を取り戻そうとする闘いは、大きなうねりとなって現在に至るまで続いている。
本作では、女性解放運動の先駆者で政治家のアンドレ・ブルアン、国連平和維持活動を率いたアイルランドの外交官コナー・クルーズ・オブライエン、ベルギー=コンゴ出身の作家イン・コリ・ジャン・ボファン、ソ連の指導者ニキータ・フルシチョフの4人を中心に、ルイ・アームストロング、マルコムX、ディジー・ガレスピー、ジョン・コルトレーン、ダグ・ハマーショルド、フィデル・カストロら、音楽家・思想家・政治家・軍人・スパイたちが入り乱れる歴史の闇を、ダイナミックな編集とリズム感で描き出す。監督は「シャドー・ディール 武器ビジネスの闇」などで知られるベルギー出身のヨハン・グリモンプレ。
その時、アフリカは動いた
21世紀以降、アーカイブ映像を用いたドキュメンタリーがひとつのジャンルとして発展していった。デジタルシネマの時代になり、比較的容易に過去へアクセスできるようになったからであろう。かつては国家や一部の者しかアクセスできず、特定の視点でしか語られなかったであろうナラティブからこぼれ落ちてしまった歴史をどのように掬い上げるのかを映画監督は模索していった。
たとえば、セルゲイ・ロズニツァの『国葬』は2019年にソ連のプロパガンダ映画を意図的に構成することによってプロパガンダの本質を突こうとしている。スターリンの死により黙祷の大砲が放たれるのだが、地方の炭鉱のようなところまでその音が伝播しているように群衆が帽子を取る。つまり、ひとつの方向を悲しげな顔で見つめる描写を繋いでいくのだ。『戦艦ポチョムキン』でセルゲイ・エイゼンシュテインは、モンタージュ理論を構築していたが、まさしくその最良の例として『国葬』は人の顔と大砲の音のモンタージュでもってソ連国民全員がスターリンの死を悲しんでいることを強調するのである。その大団円に持っていくために、ウクライナやソ連のあらゆる都市を映す下準備を行う。中国からの来賓であろう人との交流が描かれる。そういった下積みが、あの大砲のモンタージュを強固なものにするのだ。
では、『叛逆のサウンドトラック』はどうだろうか?
本作の最大の特徴は、が国連安全保障理事会における脱植民地化を巡る投票にて、ジャズの旋律が議会のショットに当てはめられてリズミカルにアフリカの連帯が描かれている点にある。映画は時空間を容易に歪めることのできるメディアである。1960年代のアフリカは、冷戦下における米ソの思惑、それに付随する資源獲得競争に巻き込まれ、傀儡・搾取の被害に遭っていた。それはアフリカ人の中でも分断を呼び、本作でも描かれるようにジャズミュージシャンが政治に利用されることもあった。
映画では元ベルギー領コンゴ民主共和国の動きを中心に描かれる。コンゴ民主共和国は1960年に独立を果たすのだが、ベルギーから支援を受けていたモイーズ・チョンベが南部のカタンガ州を独立させると宣言した。国際連合安全保障理事会の決議によって事態を収束させることとなった一方で国際連合自体はカタンガへの介入に消極的であった。当時のアフリカの混迷は欧米の思惑が複雑に張り巡らされており、ルムンバ首相のソ連への歩み寄りに対するアメリカの反発、軍人ジョゼフ=デジレ・モブツによるクーデター、国連事務総長ダグ・ハマーショルドの暗殺といったことが次々と起こっていった。
本作が面白いところは、このような複雑な政治を軽妙なジャズ、レコードのジャケットのようなテロップを挿入したフッテージで軽快に物語りながら、アフリカ人のアフリカ人によるアフリカ人のための連帯の姿を捉えようとしている点にある。かつてコンゴ民主共和国を食い物にしたベルギーの内省の意義もこもったパワフルな156分であった。
2026年8月7日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開











