火山のもとで(1984)
Under the Volcano
監督:ジョン・ヒューストン
出演:アルバート・フィニー、ジャクリーン・ビセット、アンソニー・アンドリュース、ケティ・フラド、エミリオ・フェルナンデス、イグナシオ・ロペス・タルソetc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
菊川の映画館Strangerにて開催中のジョン・ヒューストン特集にて『ワイズ・ブラッド』『火山のもとで』の2本観てきた。『ワイズ・ブラッド』は年間ベストに入るほどの大傑作だった一方で、『火山のもとで』は取っつきにくさを感じた。しかし、この2本は併せて観る必要があり、『ワイズ・ブラッド』を踏まえて『火山のもとで』を観ると何をやろうとしているのかがよくわかる。
『火山のもとで』あらすじ
「黄金」「アフリカの女王」の名匠ジョン・ヒューストンが、イギリスの作家マルコム・ラウリーによる小説「火山の下」を映画化したドラマ。1930年代のメキシコを舞台に、アルコールに溺れる元英国領事の破滅へ向かう一日を通して、愛と喪失、孤独を描き出した。
1938年の「死者の日」。メキシコの小さな町クエルナバカで暮らす元英国領事ジェフリー・ファーミンは、極度のアルコール依存で酒に身を委ねながら荒んだ日々を送っていた。そこへ、1年前に別れたものの、復縁を望んでいる妻イヴォンヌが突然戻ってくる。さらにそこへ異母弟ヒューも現れ、3人は祭りと闘牛見物へと出かけるが……。
自ら破滅へと向かっていく人間の業を、一日という限られた時間の中に描き出し、主人公ジェフリーを演じたアルバート・フィニーは、第57回アカデミー主演男優賞にノミネートされるなど高い評価を得た。共演にジャクリーン・ビセット、アンソニー・アンドリュース。
より辛辣な『ワイズ・ブラッド』
マルコム・ラウリーの小説を映画化した本作は、1930年代のメキシコを舞台にアルコールに溺れる元英国領事ジェフリーを助けようと元妻のイヴォンヌと異母弟ヒューがやってくる内容となっている。
ジェフリーは「死者の日」で高揚とするメキシコの町に身を埋めながら、アルコールを浴びるように飲んでいる。手は震え、現実と虚構の区別がつかなくなった彼はクラブのステージに上がり叫び、知り合いに妄言を垂れ流している。そんな彼の元に復縁を望んでいるイヴォンヌが現れる。彼女は見るも無様な姿へ成り果てた彼に困惑する。一方で異母弟ヒューはジェフリーの見る世界に寄り添いながら仲介役をこなしつつ、ドイツ軍による戦争の陰謀を解き明かそうとしている。
『火山のもとで』の前半1時間はひたすらジェフリーが取りつかれたかのようにアルコールを求めては周囲に迷惑をかけていく様が描かれている。もはやストーリーとして破綻しているであろう延々と壊れたジェフリーを映していく様は鑑賞者に苦痛を強いる。映画館でサイレント映画『芸術と手術』が上映されており、ある事件をきっかけに本心と関係なく肉体が良からぬ行為を働くこの映画と本編を結び付けているような気配を抱くも、映画は明らかに本人の意思で壊れていくので機能不全な引用にも思える。
しかしながら、直前に観た『ワイズ・ブラッド』を重ねると違った世界が見える。作品構造が全く一緒なのだ。『ワイズ・ブラッド』では故郷を失った帰還兵ヘイゼルが、誰も知る者がいない町で「キリストのいない教会」の布教活動をする。布教活動をしている割には他者を拒絶しており、破滅を望んだかのように常軌を逸した行為を繰り返していく。この作品は、戦場でトラウマを抱え、人も神も信じられず、かといって死に場所も選べない者が破滅的な生き様を選択し続ける内容だ。陰惨な内容ではあるものの、天気は翳りひとつない晴天下で繰り広げられており、雨が降る時、彼の人生の終着点が見えてくる。
『火山のもとで』も構造は全くもって同じであるがより一層、抽象化と死への欲動の即物的運動をスクリーンに刻み込んでいる。この異様さは当事者でないとわかり辛いものがあるが、極めてリアルといえる。ジェフリーは死を望むが如くアルコールに溺れている。彼は無防備であり、周囲にも迷惑かけまくっているものの、何故か町の人たちは優しい。泥酔状態で遊園地のアトラクションに乗り帽子や金を地面に落としまくっても、子どもたちは盗むことなく拾って渡すし、家族は遠路はるばる訪問し介抱し続けるのだ。だが、ジェフリーはそういったものに耐え切れなくなり、さらなる死を求めて旅の途中でイヴォンヌを見捨てて怪しげな娼婦バーへと逃げてしまうのだ。この映画もメキシコの美しい風景の中で進行していき、雨が降る時、彼の運命が確定する。トラウマや鬱を抱えた者にとって他者から差し伸べられる救いの手を跳ねのけ独り、死を望もうとする異様な感覚が描かれているのだ。
『ワイズ・ブラッド』では、盲目を偽装したペテン師や、誰かに構ってほしい想いが暴走して距離感がおかしくなった者の奇行が物語のアクセントとして描かれていたため、エンターテイメントとして観ることができた。一方で、本作はアルコール度数があまりにも高すぎる陰鬱な内容ゆえにジョン・ヒューストン映画の中ではかなり玄人向けな一本といえる。だが、後期のジョン・ヒューストンが戦争のPTSDをどのように表現しようか模索していたかがわかる作品として重要であろう。











