『Donkey Princess』大人の童話《ロバの皮》あるいは逆異世界転生もの

Donkey Princess(2026)

監督:クリストーバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
出演:Antonia Giesen、Andrew Bargsted、Francisco Melo etc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『オオカミの家』のクリストーバル・レオン、ホアキン・コシーニャコンビが手掛ける最新作は、シャルル・ペロー「ロバの皮」をモチーフとした物語となっている。

『Donkey Princess』あらすじ

Follows Princess Diana in a kingdom where her father outlawed love. At 15, she falls for Lalo, who is banished. Diana uses a magical bracelet to travel across worlds searching for her lost love.
訳:父親が愛を禁じた王国を舞台に、ダイアナ王女の物語が描かれる。15歳の時、彼女はラロに恋をするが、彼は追放されてしまう。ダイアナは魔法のブレスレットを使って、失われた愛を探すため、異世界へと旅立つ。

IMDbより引用

大人の童話《ロバの皮》あるいは逆異世界転生もの

ラロとの恋を禁じられた王女ダイアナの冒険を描く本作は前作『ハイパーボリア人』に次いでハリボテのセットの中、実写とストップモーションアニメを組み合わせた独創的な世界となっている。「ロバの皮」ジャック・ドゥミが『ロバと王女』として映画化しているのだが、それと比べるとダークな大人向けの質感に感じる。

このコンビはガイ・マディンの熱狂的ファンであるアリ・アスターに見出されたこともあり、サイケデリックな色彩感覚の中で物語を展開していくスタイルは『Twilight of the Ice Nymphs』を彷彿とさせるものがある。あるいは、ジェーン・シェーンブルンの作品のように「Amanda the Adventurer」を始めとする現実から解像度を落とした世界の中を探索させるホラーゲームの質感を援用しているようにも思える。実際、このコンビは『ハイパーボリア人』でゲームのような要素の引用を模索していた痕跡があるので、映画以外の要素を用いて物語を紡ぐことに関心があるといえる。

本作が面白いところは途中から逆異世界転生ものとなる点にある。ラロが追放される前にブレスレットがダイアナに渡される。彼女はそのブレスレットを使ったことで現代のチリへと転送される。そこでラロと再会した彼女は害虫駆除業者としての人生を始めるのである。

『Donkey Princess』は「ロバの皮」における、家族の呪いを断ち切るように異国へ逃げるといった内容を現代のチリに置き換えることでユニークな都市論へと繋げている。日本では、村社会の息苦しさから逃れるために東京へ渡るといった話をよく耳にする。東京の街は地方に比べて良くも悪くもドライである。隣人のことは気にせず自由でいられる。匿名的存在が故の孤独はポジティブに扱われることがある。クリストーバル・レオン、ホアキン・コシーニャも同様の論で描かれており、家父長制の息苦しさから解放されるために、都会へ身を埋める。現代のチリはコロナ禍を示唆するかのように外出禁止令が敷かれており、そこでエッセンシャルワーカーとして害虫駆除の仕事を始める。この世界ではダイアナの父も存在するのだが、元世界とは異なる関係性であることもわかる。

本作の異なるタッチが共存することによる異様さは、どこかコロナ禍で感じたフィクショナルな世界に近いものがある。世界が大きく変わりフワフワとしているのだが、決定的に変わったルールは時として抑圧される者を解放する。実際、2010年代までは恋愛至上主義が蔓延していたのだが、コロナ禍で恋愛の価値観が変わり、結婚式の文化も大幅に縮小されたように思える。それは反恋愛主義者の私にとっては好都合であった。一見するとディストピアに思える世界が前時代からの価値観の変化によって、少しばかりのハッピーエンドとして機能する様をクリストーバル・レオン、ホアキン・コシーニャが表現しているように思え面白く感じた。ただ、『オオカミの家』があまりにも強烈だったため、それを超える困難さもひしひしと伝わった。