『ソウルに帰る』アイデンティティの揺らぎの中、他方を拒絶して

ソウルに帰る(2022)
韓国題:올 더 피플 이윌 네버 비
仏題:Retour à Séoul
英題:Return to Seoul

監督:ダヴィ・シュー
出演:パク・ジミン、オ・グァンロク、キム・ソニョン、グカ・ハン、ヨアン・ジマー、ルイ=ド・ドゥ・ランクザンetc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

昨年の東京フィルメックスで話題となった『ソウルに帰る』を観た。自分のオールタイムベスト小説に李良枝『由煕』があるのだが、それに近いアイデンティティの揺らぎ、映画だと『ブルックリン』に近い葛藤が反映された作品であった。

『ソウルに帰る』あらすじ

異国の地ソウルで自身の原点を探し求める女性の姿を描き、2022年・第43回ボストン映画批評家協会賞で作品賞に輝いたドラマ。「ダイアモンド・アイランド」のカンボジア系フランス人監督ダビ・シューが、友人の経験に着想を得て脚本を執筆しメガホンをとった。

韓国で生まれフランスの養父母のもとで育った25歳のフレディは、ふとしたきっかけから初めて韓国へ帰ることに。しかし自由奔放な彼女は、韓国の文化や言葉になじむことができない。そんな中、フレディはフランス語が堪能な優しい韓国人テナの協力を得て、自分の実の両親を捜しはじめる。

映画初出演のパク・ジミンが主人公フレディの複雑な内面を見事に演じ、「ファイター、北からの挑戦者」のオ・グァンロク、「三姉妹」のキム・ソニョンが共演。第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作品。第23回東京フィルメックスのコンペティション部門で審査員特別賞を受賞した。

映画.comより引用

アイデンティティの揺らぎの中、他方を拒絶して

「外国かぶれ」を時折目にする。海外で暮らしていた、あるいは留学していた人が、ルーツとなる国の文化に対して蔑んだり上から目線な態度を取ることを示す。それを示された方は冷ややかな目で観る。あのメカニズムはなんだろうか?本作を観ると、そのような態度のルーツにあたる側面に触れることができる。フランスで育ったフレディは自分のルーツを探すために韓国へやってくる。そこでフランス語が堪能な者と居酒屋で対話するのだが、突然彼女は他のテーブルの人を巻き込んで会食にしようとする。地図を読みながら歩いて人とぶつかったり、バスを突然止めようとしたり自分勝手な奇行が目に余る。そして、そんな彼女に対して冷ややかな眼差しを捉えていく。ただ、映画を観ていると、彼女は韓国にルーツがありながらもフランスで孤独に生き抜いてきた過去、韓国は自分を捨てた地であることが分かってくる。彼女の行動にはどこか、もう一つのアイデンティティである韓国に対する怒りが見えるのだ。複数のアイデンティティを持っており、片方に不快感を抱いた時、人はどのように行動を取るのか?序盤の居酒屋での場面は、一般的に言われる「韓国では群れて食事するのを美徳とする文化」を露悪的に振る舞った態度だろう。嫌悪を抱えるアイデンティティの部分を誇張して振る舞うことで怒りを突きつけるイメージだ。もう一つはバスの場面などをはじめとする自由奔放さ。これは個人主義的な部分を全面に押し出した振る舞いと言える。メンツを重んじる文化に対して個人主義を突きつけながら自分のアイデンティティの揺らぎと対峙していく物語としてみると、彼女の飲み込み辛い行動の真理に迫れる作品かと思う。この大胆で繊細な作りを観るにダヴィ・シュー監督は今後注目といえよう。A24とコラボしそうな気配がする。

※映画.comより画像引用