A Piece of Sky(2022)
Drii Winter
監督:ミヒャエル・コッホ
出演:Michèle Brand、Simon Wisler、Elin Zgraggen etc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第72回ベルリン国際映画祭スペシャル・メンションを受賞したスイス映画『A Piece of Sky』を観た。これが非常に良くできた作品であった。
『A Piece of Sky』あらすじ
In a remote mountain village, Anna tries to preserve her young love for Marco, against all odds.
訳:人里離れた山間の村で、アンナはどんな困難にも負けず、マルコとの若き日の愛を守り抜こうとする。
孤独な山奥で私たちはただ耐え忍ぶのみ
スイスの山間部、屈強な男が杭を打つ。大きな牛の世話をしながら山村の生活は維持される。仕事が終われば、ビールを飲む。そんな山村で一組の新婚カップルが生まれる。しかしながら、夫マルコ(Simon Wisler)は脳腫瘍を患ってしまい仕事ができなくなってしまう。山村の人々は、ゆっくりと彼から距離を置く。マルコは障がいで感情を抑えられなくなり周囲に危害を加えてしまうのではと思い、自らを抑圧していく。そんな彼を辛抱強くアンナ(Michèle Brand)は介護していく。
最初に読んだあらすじの印象、そして序盤に感じた印象とは全く異なる作品であった。序盤に、牛が小便をし、その牛に別の牛が跨がって激しく性行為する場面があったので、この本能的暴力が後のマルコを予感させているのかと思いきや、映画はひたすら静かに耐え忍ぶ一家を描写していた。マルコが変容しても、画は山間部での営みを中心に捉えており、例えば山から山へと物資が運ばれる様子を長回しで描いていたりする。フレディ・M・ムーラー『山の焚火』を彷彿させる作品となっている。
そして、この映画は空間演出の手数が非常に多い作品となっており、暗い話ながらも視覚的面白さに満ちている。例えば、家の後ろに回り込む場面。すぐにカットを割らず、開いている扉から見える窓に注目を促し、その窓の境界線で分断した心を表現している場面がある。また、部屋の場面ではカメラが横移動していくのだが、突然一室でマスターベーションするマルコの姿が映り込む。しかし、カメラは何事もなかったかのように移動をし続け、日常を捉えていく。周囲は、個の苦悩を見て見ぬ振りをしてしまう、または個の苦悩なんてものは意外と見えないものだということを画で説明するのだ。
なので話自体は陳腐に見えるものの、緻密な画によって汲み取られる心情が奥深くて約2時間20分惹き込まれました。東京国際映画祭にやってきたら昨年でいう『洞窟』ポジションの作品だと思います。