【カンタン・デュピュー特集】『勤務につけ!』運が悪いことほど運が良いことはない

勤務につけ!(2018)
Au poste!

監督:カンタン・デュピュー
出演:ブノワ・ポールヴールド、グレゴワール・ルディッグ、アナイス・ドゥムースティエ、Marc Fraize、オレールサンetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2022年はカンタン・デュピューが熱い年だ。『地下室のヘンな穴』、『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』に次ぎ、9/14(水)よりJAIHOにて『勤務につけ!』が配信される。今回は試写で一足早く拝見したので感想を書いていく。

『勤務につけ!』あらすじ

舞台はとある警察署。設定は、捜査官による容疑者の尋問、拘束。その他は…?何が起こるかさっぱり謎!究極のミステリーコメディ。

Filmarksより引用

運が悪いことほど運が良いことはない

修羅場映画において、次々と不運を連鎖させていくことは重要だ。そしてその過程において「不運」が「幸運」に変わることがある。

本作はそんなおかしさを70分で駆け抜ける傑作だ。

ルイ・フュガン(グレゴワール・リュディグ)は取り調べを受けている。殺人容疑をかけられているのだ。日が暮れ、空腹なフュガンは「取り調べは明日にしよう」とビュロン(ブノワ・ポールヴールド)に訴えるが、食べかけのチョコバーを渡して話を聞かない。そんな彼に急用ができる。これで解放されると思いきや、何も事情が分かっていない人が割り当てあれ、部屋に軟禁されることになる。

会話が全く噛み合わない状況下で、凄惨なトラブルが起きてしまう。冤罪なのに、限りなく有罪に近い冤罪が眼前で展開される。不運なことに、ビュロンは帰ってきてしまい緊迫感ある取り調べが再開する。

本作が面白いのは、事件当時の取り調べの最中に、つい10分前に起きた事件の残像がノイズとして入り込んでしまう場面である。フランス語は点の過去や線の過去といった概念が存在するが、そこに特化したように観る者へ時制を意識させる作りをしている。これは元ネタがある。Konbiniのインタビュー動画によれば、フィリップ・ド・ブロカ『おかしなおかしな大冒険』の影響を受けているとのこと。この作品は、冒険作家が妄想しながら小説を書く話。虚実が曖昧になってくる作品だ。

『勤務につけ!』の場合、人が過去を振り返るとき、自分なりに事実を加工した「真実」が醸造され、そこに虚構が紛れ込むことをコメディとして描いている。遅々として進まない取り調べ、噛み合わない会話、そして脳裏にチラつく別の事件が真実を歪めていき、迷宮となる。

修羅場の迷宮から脱したい欲望が思わぬ「不幸中の幸い」で救われる。しかし、それすらも罠としてルイ・フュガンを深淵に突き落とす。

驚きの場面が次から次へと押し寄せてくる怪作なので、実際にあなたの目でこの混沌を確かめてほしい。

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