【カンタン・デュピュー特集】『ラバー』喜怒哀楽念力使いのタイヤ

ラバー(2010)
Rubber

監督:カンタン・デュピュー
出演:スティーヴン・スピネラ、ロキサーヌ・メスキダ、ジャック・プロトニック、ウィングス・ハウザーetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『地下室のヘンな穴』、『マンディブル』とカンタン・デュピュー作品が日本紹介される2022年。久しぶりに出世作『ラバー』を観ました。高校時代にケーブルテレビで放送されていて当時はヘンな映画だなと思った。今観ると、改めて凄い作品だと感じた。

『ラバー』あらすじ

テレパシーで次々と人間を殺害していく「殺人タイヤ」の恐怖を描いた異色のパニックホラー。砂漠に打ち捨てられた古タイヤのロバートにある日突然、命が宿る。やがてロバートは念じるだけで物を破壊できるテレパシー能力をもっていることに気がつき、最初は小動物やゴミを破壊していたが、次第に人間に興味を持ちはじめて……。

映画.comより引用

喜怒哀楽念力使いのタイヤ

椅子を薙ぎ倒すパトカー。そしてそれを双眼鏡で見つめる人々。『ラバー』はスプラッター映画における観客の反応を、双眼鏡で覗き込む人々を通じてメタ的に描いている。映画は所詮、「人生を覗き込む行為」であり安全圏から事象を凝視しているに過ぎないとカンタン・デュピューは指摘する。そして始まるタイヤの物語。顔はない。無機質の存在であるにもかかわらず豊かな感情が描かれている。

ペットボトルを前に立ち止まるタイヤ。ミシミシィと轢き潰す。「痛いだろ」と拷問するように轢き潰すのだ。次にサソリが現れる。轢き潰す快感を知っているタイヤは、勢いよくサソリを圧殺する。そんなタイヤの前にビンが現れる。潰そうとするも、なかなか潰れない。段々とフラストレーションが高まっていくタイヤ。怒りを宿すタイヤは、まるで威嚇する猫のような振る舞いをし、念力でビンを粉砕する。

念力を覚えたタイヤは、目の前に現れる人間の脳を粉砕して回る。

カンタン・デュピューは『ヴィデオドローム』を意識した『リアリティ』。巨大バエ育成物語『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』とどこかデヴィッド・クローネンバーグを意識した作品を放っている。本作では『スキャナーズ』愛を炸裂させており、念力で次々と脳が粉砕されていく様子を描いていく。バキバキに決まった構図の中で死を配置していく。そして、B級映画を見世物的に楽しむ観客像を捉えながら描写していく姿勢は後の『勤務につけ!』に通じるものがありました。

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※MUBIより画像引用

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