【ネタバレ考察】『ノイズ』グレート・ハンガーは死を積み上げる

ノイズ(2022)
noise

監督:廣木隆一
出演:藤原竜也、松山ケンイチ、神木隆之介、黒木華、伊藤歩、渡辺大知、酒向芳、迫田孝也、鶴田真由、波岡一喜etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

1年に1回は藤原竜也を観ないと気が済まない私。公開日初日に『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』横目に『ノイズ』を観てきました。本記事は結末について触れているネタバレ記事です。

『ノイズ』あらすじ

筒井哲也の同名コミックを、「デスノート」シリーズで共演した藤原竜也と松山ケンイチの主演で実写映画化したサスペンス。時代に取り残され過疎化に苦しむ孤島・猪狩島。島の青年・泉圭太が生産を始めた黒イチジクが高く評価されたことで、島には地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民たちに希望の兆しが見えていた。しかし、小御坂睦雄という男の登場によって、島の平和な日常が一変する。小御坂の不審な言動に違和感を覚えた圭太と幼なじみの猟師・田辺純、新米警察官の守屋真一郎の3人は小御坂を追い詰めていくが、圭太の娘の失踪を機に誤って小御坂を殺してしまう。3人はこの殺人を隠すことを決意するが、実は小御坂は元受刑者のサイコキラーであり、小御坂の足取りを追って警察がやってきたことで、静かな島は騒然とする。泉圭太役を藤原、田辺純役を松山がそれぞれ演じる。監督は「ヴァイヴレータ」の廣木隆一。

映画.comより引用

グレート・ハンガーは死を積み上げる


本作は、鍋島淳裕ののっぺりとした撮影とエッジの効いた撮影のせめぎ合いが面白い作品だ。なんの変哲もない、役所のショットがあるかと思えば、島に現れた謎の男を捉える時、画に禍々しさが宿る。畑に乗り上げた車の歪な軌道はもちろん、小御坂睦雄がイチジク農家の娘を変態的な眼差しで観る場面の、死角スレスレを攻めるショット。そしてブリュノ・デュモン映画『アウトサイド・サタン』を彷彿とさせる後光を捉えながら死を捉えていく様子等々。大友良英のねちっこい音楽もあり、窮地を中々脱出することのできないいやらしさを盛り上げていく。

イチジク農家の大黒柱・泉圭太、親友の猟師・田辺純、新米警察官・守屋真一郎が小御坂睦雄を殺してしまったことから彼らは修羅場のジェットコースターに巻き込まれる。泉圭太はイチジクの栽培で有名となり、島に5億の支援金が入るようになった。しかし、いくら犯罪者であっても小御坂睦雄を殺してしまったら、その支援金が手に入らなくなるかもしれない。守屋真一郎は尊敬する先輩から「かさぶたになれ」と言われていたことから、この事件を揉み消そうとする。しかし、小御坂睦雄の正体は凶悪犯罪者であり、警察が大量に島へとやってきてしまう。キレものの刑事が嗅ぎ回る中、なんとか冷凍庫に入れている死体を処分しようとするが、不測の事態で島の長と、老人まで凄惨な死に方をしてしまう。

それと同時にどんどん共犯関係が広がってしまい、守屋真一郎も極限状態に嘘がつけなくなっていく。中盤までは、修羅場映画として面白かった。微妙に噛み合う利害関係で犯罪がバレるスレスレを突き進む感じが心地よい。しかも、出てくる小道具や人物から連想される不吉な展開をワンテンポズラしたり、外していくところが面白い。例えば、圭太の娘を誘拐したと思われる小御坂を追跡する場面。田辺純は猟銃を持っていく。揉み合いの中で銃殺が発生することを匂わせる。丁寧にも「弾は入っていない」と銃の中を確認する描写なく語る場面がありフラグとなっているのだが、実際には圭太が小御坂を振り払い、その過程で死亡する展開となっている。また、老人に遺体を運ぶ様子が見られてしまう場面。純の作業場の扉をガンガン叩く音が聞こえ、てっきりその老人かと思うと島の長だったりする。

刑事から、「てめーがやったんだろ!知ってるよ。」と言われてもひたすら嘘を突き通す場面があるのだが、その後に刑事の発言がハッタリだと分かるシーンが挿入されていたりする。この微妙にパズルのピースが合ったり合わなかったりする匙加減が非常に上手い。

それだけにラストがガッカリだった。結局、圭太が自白することで物語は収束するのかと思いきや、実は圭太に嫉妬する純が途中から圭太に罪を被らせるように行動していたことが明らかとなるのだ。もし、そうだとしたらビニールハウスでもみくちゃになりながら、ダチョウ倶楽部のように「俺が罪をかぶる」発言の応酬をするのはハイリスクだろう。しかも、大衆娯楽映画として作っているのだから分かりやすくしないといけない配慮だと思うのだが、この映画の残された謎を全部回想で説明してしまっている。それにより、どんどん修羅場が広がっていき収拾がつかなくなってしまう物語が急に小さな話になってしまった。個人的に、修羅場を切り抜け圭太一家が島を出る映画の中だけで許されるハッピーエンドとか、圭太が捕まった瞬間潔く終劇となる展開に持ってきて欲しかったのだが、守りに出た結果つまらない結末となってしまった。

一方で、この嫉妬エンディングがあることによって本作のねっとりとした演出の正体が分かった。それはイ・チャンドンの『バーニング 劇場版』の質感を目指していたことだった。『バーニング 劇場版』は、女性はもちろん猫を買う幸福ですらリッチな者に奪われた男の大いなる渇望(グレート・ハンガー)が描かれており、言葉にもならない辛さを美しくも粘着力のある画で描いていた。本作にもその片鱗が感じられました。

廣木隆一監督作の中ではかなりあたりですが、ラストだけどうにかならなかったかなと思いました。

※映画.comより画像引用