ジェントル・クリーチャー(2017)
A Gentle Creature
監督:セルゲイ・ロズニツァ
出演:Valeriu Andriuta,Liya Akhedzhakova,Boris Kamorzin etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『アウステルリッツ』、『粛清裁判』、『国葬』、『ドンバス』と日本でもセルゲイ・ロズニツァ作品が紹介され注目されつつある。JAIHOでも6/4(土)より『ジェントル・クリーチャー』が配信される。試写にて一足早く観賞したので、感想を書いていく。
『ジェントル・クリーチャー』あらすじ
ロシアの村はずれに一人で暮らす女性。ある日、収監中の夫に送った小包がただ「差出人に返送」と書かれ、何の説明もなく返送されてくる。ショックを受け、混乱した女性は、理由を探ろうと辺境の地にある刑務所に向かう。夜汽車に乗り、辿り着いた刑務所には同じような境遇の人々が長蛇の列を作っていた。順番を待ち、差し入れを頼むが許可されず、抗議すると連行され、釈放されると今度は怪しげなブローカーたちが彼女につきまとう。やがて、駅で途方に暮れる彼女はある謎の屋敷へ連れていかれる。そこには軍の管理の下、様々な人々が集められていた…。
干渉する不条理に干渉することはできない
夫に送った小包が返送される。郵便局で、何故返送されたのかと理由を尋ねても、局員は突っぱねる。郵便局にとって返送された理由などどうでもよく、事務処理的に返送することが仕事だからだ。処理する案件が多いので、一人の厄介ごとに構っている時間はない。長時間待たされたのであろう、行列でごった返す郵便局の群衆が不吉な予感を抱かせる。重い返送品を持ってバスに乗る。バスも郵便局に匹敵するほど、人、人、人の鮨詰め状態となっており、おばちゃんが小言をずっと言っている。だったら、直接刑務所に行けば良いと思い立ち、旅に出るが、行く先々で彼女は不条理に振り回されてしまう。果たして彼女は夫と再会することができるのであろうか?
本作は、不条理の本質を突いたドラマだ。不条理は人に干渉するが、人は不条理に干渉することができない。一方的に振り回されるだけなのだ。そこには安全圏がない。「不思議の国のアリス」のように、次々と現れる曲者が織りなす茶番を前に困惑する。アリスが身体の大きさを変えることで多少なりとも社会に影響を与えたのに対して、『ジェントル・クリーチャー』の女性は干渉することすらできず、仕舞いには指を咥えて眼差しを向けるだけの傍観者に成り果てる。
これは、巨大な社会システムの中で、どんなに足掻いても社会に影響すら与えられない絶望を象徴しているといえよう。ムスッとした眼差しを向けることしかできない虚しさを悪魔的たらい回しで描いた意欲作であった。
JAIHOにて6/4(土)〜8/2(火)配信。
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※IMDbより画像引用