上意討ち 拝領妻始末(1967)
監督:小林正樹
出演:三船敏郎、加藤剛、江原達怡、大塚道子、司葉子、仲代達矢、松村達雄、三島雅夫、神山繁、山形勲etc
評価:70点
小林正樹監督は『人間の條件』しかり『切腹』しかり、日本の組織の問題点を語るイメージがある。『上意討ち 拝領妻始末』も例に漏れず、日本のトップダウン組織の辛さを描いた作品だった。
『上意討ち 拝領妻始末』あらすじ
「怪談」の小林正樹監督が三船敏郎と初タッグを組み、1967年・第28回ベネチア国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞した時代劇。同監督作「切腹」の原作小説「異聞浪人記」で知られる滝口康彦の短編小説「拝領妻始末」をもとに橋本忍が脚色を手がけ、武家社会の非人間性を描く。会津松平藩馬廻り役の笹原伊三郎は、主君・松平正容の側室いちを長男・与五郎の妻に拝領するよう命じられる。息子の幸福な結婚を願う伊三郎は断ろうとするが、藩命に背くことはできず受け入れることに。望んだ結婚ではなかったものの、与五郎といちの間には愛情が芽生え、子どもにも恵まれる。しかし正容の嫡子が急死したことから、新たな世継ぎとなった菊千代の生母であるいちを大奥へ返上するよう命令が下される。
トップダウンによる理不尽さ
孫がほしいと言ったがばかりに、息子に縁談が持ちかけられ、訳ありの女性を押しつけられる。上の指示に逆らうことができないので結婚生活が始まるのだが、思いの外上手くいき、家族ができる。しかし、夫婦円満になると、今度は藩から、「女を返せ」と言われる。あまりにも理不尽な引き裂き方にキレるという内容だ。
流石に今の時代では、このような人身売買的に女性を扱うことはないが、サラリーマンからするとこの手の理不尽は身に覚えがありすぎて泣けてくる。白羽の矢が立ち、渋々受け入れる。そしてやっとのことで軌道に乗せたと思ったら、無茶苦茶なコスト削減を言い渡されたり、儲けていない事業だからと軽んじて扱われたりする。トップは下の痛みを感じずに無茶を言う。
小林正樹は松竹での下積み時代や戦時中の満州警備での経験が相当辛かったのだろう。生々しく、ヤスリで体を擦るような痛々しい人間ドラマが描かれている。
ただ、小林正樹監督は単純な重い社会派ドラマに着地することなく、殺陣描写へのこだわりの強さが2020年代に入っても廃れることのない巨匠へと押し上げたと言える。なんといっても命の重さが感じられるのだ。人殺しの刀を持っている以上、生と死は隣り合わせだ。だから一振り一振りに慎重を要する。滑稽に見えるポーズも、真剣な眼差し、手汗握る手つきで持って、カッコ良く見える。刀と刀がぶつかり合うと、緊迫感溢れる均衡が保たれる。それを斜めの角度からダイナミックに撮る。小林正樹映画は中学時代以来の観賞でしたが、発見が多かった。他の作品への興味が湧いた。