初仕事(2020)
First Job
監督:小山駿助
出演:澤田栄一、小山駿助、橋口勇輝、武田知久、⽵⽥邦彦、細⼭萌⼦、中村安那etc
評価:75点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第12回 TAMA NEW WAVEでグランプリとベスト男優賞(澤田栄一)の二冠に輝き、第33回東京国際映画祭(2022)に出品された『初仕事』が2022/7/2(土)より新宿K’s cinemaより公開される。今回、試写で一足早く拝見しましたので感想を書いていきます。
『初仕事』あらすじ
写真館のアシスタントである山下は、赤ん坊の遺体の撮影を人づてに依頼され、良い経験になるかもしれないと依頼を受ける。赤ん坊の父親であり依頼主でもある安斎は、始め若い山下に戶惑うも、正直で実直な山下に心を許し、撮影が始まった。遺体の状態を考えると時間がないという状況も、山下の使命感に拍車をかけ、美化すべきでないという倫理観は、目の前の状況に吹き飛ばされる。 一方、安斎も次第に自身を突き動かしていたのが未練だったのではと気づき、山下を止めようとするが…。
※ムービー・アクト・プロジェクトさんのプレス資料より引用
僕の最初のお仕事は「死」を撮ることだった。
写真、それは決定的瞬間を、唯一無二の時間を収めたものである。かつて、絵画が現実の光を空間を捉えようとした。完璧にその瞬間を収められる写真の登場は、その延長線上にあった。『初仕事』は、そんな写真の歴史を感じさせる一本である。なんといっても、本作は撮影を手掛けた高階匠の切り取る空間がシンプルながらも強烈で、少なくとも高階匠の名前だけでも覚えてほしい。
写真館に入る。写真機にピントが当たっているのだが、周囲とのボカシの加減が独特である。この独特さが全編を覆う。家族の輝ける日常がオープニングとして流れるのだが、白をベースとした空間。部屋の隅を重心の線として、立体感のある構図を作り出す。幸せな家族の肖像画を捉えていく。だが、新人カメラマンが向かう場所は、仄暗い。赤子が亡くなったのだ。がらんとし、やたらと広い空間。そこにずっしりと冷却ボックスが置いてある。「死」のオーラが立ち込め、家というよりかはハリボテの舞台のような生活感を失った部屋で、依頼主である安斎と新人カメラマン山下の共同作業が始まる。安斎が赤子の遺体を動かす。窓は空いていて、緑の光が差し込む。彼が動く中で、絵画的構図が完成する瞬間がある。そこを狙って山下が撮る。この撮影の緊迫感が、決定的瞬間を撮るカメラマンの哲学を宿していて、職業映画としての観応えがある。この神秘的な共同作業で生み出される、仄暗い空間に赤子の霊がいるのではと感じさせるユニークな画は滅多に観ることができない。
マノエル・ド・オリヴェイラ『アンジェリカの微笑み』を彷彿とさせる不思議な空間を捉えており、高階匠の技術力の高さに感銘を受ける。
また、写真の映画でありながら、映画としての決定的瞬間を収める場面もある。例えば、失意に酔いつぶれた安斎が突然、車を降り、池に突っ走っていく場面。相棒の北館が池の中心で棒立ちになる安斎を撮る。これが決定的瞬間だと。カメラマンとしての感情が刺激される。映画としてのカメラは、山下、北館が行くことのできない角度から安斎を収める。水の波動が彼から発生する。そして、彼は歩き始める。すると、真っ黒な液体が彼を包むようにして尾を引いていくのだ。安斎は下痢を垂れ流しながら岸に戻っていく。この汚くもあり、カッコ良くもある決定的瞬間。動のメディアである映画ならではの動きで決定的瞬間を収めるところに感動させられた。写真家の映画だからと写真の構図で全編進行させるのではなく、映画としての動きを取り入れる。この技巧を踏まえると、高階匠はもちろん、小山駿助は注目の映画人であることは間違いありません。
公開は2022/7/2(土)より新宿K’s cinemaにて。