BESTIA(2021)
監督:Hugo Covarrubias
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第94回アカデミー賞ノミネート作品が先日発表されました。アカデミー賞映画はここ最近、自分の好みと合わなくなり国際長編映画賞と長編ドキュメンタリー映画賞しか興味がなくなってしまったのですが、メディアが『ドライブ・マイ・カー』の快進撃ばかり報道していると、それはどうかと思い、光が当たらないノミネート作を観て紹介したくなってきた。今回は短編アニメ映画賞にノミネートされている『BESTIA』を紹介する。本作はVIMEOで日本からも気軽にレンタルすることができます。
『BESTIA』あらすじ
Ingrid is working in the Chilean Intelligence Directorate (DINA) in 1975. Her relationship with her dog, her body, her fears and frustrations reveal a grim fracture in her mind and in an entire country.
訳:1975年、チリ情報局(DINA)に勤務するイングリット。愛犬との関係、身体、恐怖と不満が、彼女の心と国全体の深刻な分断を明らかにする。
※IMDbより引用
チリ情報局員が秘めた或る亀裂
飛行機に乗る陶器の女性。こめかみに穴が開いており、そこを覗き込むようにして物語は始まる。彼女はごく普通の女性に見える。着替えて、犬の世話をして、家事をする。しかし、ベッドには銃が置いてある。彼女はチリ情報局員、つまり秘密警察なのだ。標的を静かに始末するのが彼女の仕事だ。しかし、そんな彼女の日常が不気味に揺さぶられていく。ナイフはガタガタと動き出し、クルッと回転し自分の方に向く。犬は何かに怯えたように玄関の方へ逃げていく。突然、犬の首がなくなり、骨から血液が滴る。悪夢が彼女の心を蝕んでいく。
外を見ると、表情のない顔が彼女を見つめており、突然襲いかかっていく。本作は秘密警察でありながら、いつ自分が殺されるかわからない不安を描いている。その表象として陶器を選んでいるところが慧眼である。秘密警察としての硬さ、一方で簡単に身体も心も破壊されてしまう脆さが陶器で表現されている。
チリのストップモーションアニメ界隈は静かに盛り上がりをみせている。カルト教団の地コロニア・ディグニダから逃げてきた者の悪夢を、長回しのような連続した動きで描いた『The Wolf House』。監督のJoaquín Cociña, Cristóbal Leónは後に、アリ・アスターがエグゼクティブ・プロデューサーを務めた『The Bones』を手掛けている。いずれの作品も、ヤン・シュヴァンクマイエル作品を鍋で煮込んだような禍々しさがある。
チリ社会の閉塞感を象徴したストップモーションアニメが作られる動きが高まっているように見える。
作劇として、非常によくできた作品なので是非とも第94回アカデミー賞で受賞してほしい。
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