希望(1970)
原題:UMUT
英題:HOPE
監督:ユルマズ・ギュネイ
出演:ユルマズ・ギュネイ、ギュルセン・アルヌアチュクetc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
2020年、新型コロナウイルスになってから辛いことばかりなのですが、少しだけいいこともある。それは世界の映画祭や映画機関がオンライン配信に積極的になり、各国のクラシック作品を観られる環境が整ってきたことです。さて、Global Krudish Film Festivalが開催された。本祭はクルドに関する映画を100本ぐらい観られる映画祭となっており、日本からもオンラインで参加できる。とはいっても流石にクルド映画事情には疎いので、何を観たらいいのか悩む。そんな中、ラインナップにユルマズ・ギュネイ作品があるのに気がつきました。ユルマズ・ギュネイといえば、トルコ映画界の巨匠であり政治犯として投獄されても、仲間に指示を出して『群れ』、『敵』を撮り、遂には脱獄して『路』を完成させ第35回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した反骨の監督である。
映画史の観点から、どうしても『路』に注目が集まりがちなのですが、今回観た『希望』こそが彼のマスターピースであろうと思いました。
『希望』あらすじ
Umut (Hope) is the story of an illiterate man and his family, whose existence depends on his income as a horse cab driver. When one of his horses is killed by a car, it is clear that neither justice nor charity will prevail. Played by Yilmaz Güney, the man begins a slow slide into despair. Fuelled by an indefatigable optimism, he sets out into the desert in quest of a mythical lost treasure, slipping further and further into that final, ineluctable moment where hope itself becomes the last terrible delusion.
訳:Umut(希望)は、無学な男とその家族の物語である。彼の生活は、馬のタクシー運転手としての収入で成り立っている。彼の飼っている馬が車に轢かれて死んでしまったとき、正義も慈悲も通用しないことが明らかになる。イルマズ・ギュネイが演じるこの男は、徐々に絶望へと向かっていく。不屈の楽観主義に突き動かされた彼は、失われた神話の宝を求めて砂漠に出かけるが、希望そのものが最後の恐ろしい妄想になってしまうような、どうしようもない最後の瞬間に向かってどんどん落ち込んでいく。
※Global Krudish Film Festivalより引用
ユルマズ・ギュネイの傑作はこっちだ!
市井の人々が映し出される。ある男が新聞を持っている男のところへ歩み寄り、「番号を見てくれ」と言う。男はダルそうに、新聞の番号と紙切れを照らし合わせる。必死な顔で結果を気にするこの男は、宝くじに全ての希望を託しているのだ。彼は貧しい。唯一の商売道具である馬も草臥れている。そんな彼の住処である貧困街にカメラは注目する。ネオリアリズモ作品を彷彿とする廃墟のような空間と群れがおりなす人間味が滲み出てくる。自転車を奪われる少年。家事に励む女が映し出される中、この宝くじ男の悲惨な生き様が紡がれていく。彼は、折角の商売道具を交通事故で失い、貧窮に貧困を重ねてしまう。
ここで、ロベール・ブレッソン『スリ』を意識した手のアクションが挿入される。映画館のポスターを見ている男に忍び寄るが、気弱な彼は財布をすることができない。しかし、生きるために必死な彼は、その男を大胆にストーカーしていく。そして、不自然なタイミングで財布をすろうとすると、男が振り返りブチ切れる。ここで面白いショットが挿入される。メリーゴーランドのように回転しながら男は主人公を殴りつけるのです。
『希望』ではサイレント映画、ネオリアリズモに始まり、イングマール・ベルイマンのような陰影構図、さらにはロベール・ブレッソンの手の厳格な表現を応用しユルマズ・ギュネイの文法に徹底的に落とし込んでいる。モザイク状に張り巡らされた貧困話はやや過重搭載のように見えるものの、ひたすら画で物語続けるパワフルさがある。正直、『路』は良い作品ではあるが製作背景込みで過大評価されていると思っているだけに、ユルマズ・ギュネイの手腕を評価するなら本作を観た方が良いと感じました。
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