『二重のまち/交代地のうたを編む』だから私たちは寓話で悲劇を語る

二重のまち/交代地のうたを編む(2019)

監督:小森はるか、瀬尾夏美
出演:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

数年前から、映画ファンの中で「小森はるかが凄い」と噂が流れている。『息の跡』、『空に聞く』と東日本大震災を独特の演出で捉えている監督だそうだ。この手の映画はポレポレ東中野でぐらいしか上映されないイメージが強く、中々遭遇しないのですが、あつぎのえいがかんkikiに新作『二重のまち/交代地のうたを編む』がやってきたので観てみました。

『二重のまち/交代地のうたを編む』概要

東日本大震災後のボランティアをきっかけに活動を始めたアートユニット「小森はるか+瀬尾夏美」によるプロジェクトから生まれたドキュメンタリー。2018年、岩手県陸前高田市を訪れた4人の若き旅人たち。震災から空間的にも時間的にも遠く離れた場所からやって来た彼らは、土地の風景の中に身を置き、人々の声に耳を傾けて対話を重ね、画家・作家の瀬尾夏美がつづった物語「二重のまち」を朗読する。陸前高田のワークショップに参加した初対面の4人が、自らの言葉と身体を通して、その土地の過去・現在・未来を架橋していく様子を、映像作家の小森はるかが克明かつ繊細に映し出す。

映画.comより引用

だから私たちは寓話で悲劇を語る

テレビ番組、ドキュメンタリーで戦争や震災経験者の言葉が放送される。しかしながら、それは編集者の超絶技巧の切り取りと語り手の話術により支えられている。実際に東日本大震災を経験した人から話を伺ったことがあるのだが、あのフィクションを超えてしまった大惨事を言語化するのに苦しんでいたのを目の当たりにした。自分の心の奥に仕舞っておきたいトラウマを取り出すわけだから無理はない。同様に戦争経験者の話を何度か伺ったこともあったのですが、支離滅裂で断片的に話すのに精一杯であった。それだけにワン・ビンクロード・ランズマンのインタビューをしているだけドキュメンタリーを観るといかに監督の傾聴力が凄まじいかがよく分かる。そして8時間を超える証言集であっても、恐らく何倍もの映像が撮影されたんだろうなと思う。

さて、話を戻そう。小森はるか、瀬尾夏美コンビによる『二重のまち/交代地のうたを編む』はそんな完璧に作られたドキュメンタリーの柵を壊すことによって、凄惨な出来事の継承とそれに伴う痛みを鋭く見つめている。

本作は4人の男女が東日本大震災経験者から話を伺い、その感想や情報をカメラに向かって語り、最終的に数十年後の世界でその話を語るとどうなるのかを寓話にして魅せる過程が描かれている。

4人の男女は、インタビュー経験に浅く、取材を通じて得た真実を言語化することに慣れていない。だから迷いながら、断片的に言葉を編み込んでいく。その特殊な構成故に、東日本大震災の状況を詳しく知りたい人には歯痒さを感じることでしょう。

ただ、東日本大震災という大きな惨劇という事実に対して、直接経験した者たちが自分の中の真実として取り込む。それを受け取って他者に話す際に、既に真実が受け手によって湾曲されてしまう問題に対してどうやって向き合うのか?ジャーナリストやドキュメンタリー監督が何気なく処理してまっている問題を観客に突きつけていくところが本作の重要なポイントである。凄惨な話を聞いて簡単に消化されるのはただの「消費」である。凄惨な事件を「消費」させまいとする意志が感じ取れるのだ。

そして4人がいきついた答えは寓話化することであった。真実は一つというが、それは違う。無数にある。ならば、微分に微分を重ね、本質的なものを継承する。そこが重要であるというところに気がつくのです。

それにより本作は単なる東日本大震災の記録をアーカイブするドキュメンタリーの域を超えて、対話を通じて物語を継承していく際に生じる痛みレベルにまで普遍化してみせたのだ。

この離れ業に驚愕した。

『空に聞く』も観てみたくなりました。

※映画.comより画像引用