彼方からの手紙(2008)
監督:瀬田なつき
出演:スズキジュンペイ、朝倉あき、三村恭代、西脇彩華、伊藤海etc
評価:85点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
昨年公開された『ジオラマボーイ・パノラマガール』で瀬田なつきを再評価した私であるが、どうやら彼女がジャック・リヴェット好きらしいというのを風の噂で聞きつけこれは過去作をしっかり追っていかないとと思うこのところ。なんとMini Theater AIDのリターンであるサンクスシアターに彼女の作品が幾つかありましたので手始めに彼女が東京藝術大学 大学院映像研究科映画専攻 修了作品として制作した『彼方からの手紙』を観てみました。
『彼方からの手紙』あらすじ
吉永が働く不動産屋に訪れた女の子。吉永は、彼女がかつて住んでいた家へ付き添う事になる。空き家にあったビデオに映っていたものを見た彼は、奇想天外な出来事に遭遇していく。若干切ない彼方へのロードムービー。
※Mini Theater AIDサイトより引用
彷徨える瀬田なつき
瀬田なつき監督はどうも初期作から既に、ジャック・リヴェットが得意とする街の中で遊んで見せる姿を自分の作風に取り入れ、若者の感情が内側から溢れて言葉の洪水を作るテクニックに融合させることに成功していたようだ。
『ジオラマボーイ・パノラマガール』における思春期の少女が肉体をその場に留めることができず、ふわふわふわふわと漂ってしまう様子は既にここでも描かれており、突然不動産屋に現れた若い女の子に振り回される姿に彼女の魅力が滲み出ている。
本作の特徴は、アクションをキャンセルし続けることで、運命の手綱を女の子に握られていることに説得力が帯びている点にある。
不動産屋の男・吉永(スズキジュンペイ)がお客さんに部屋を紹介すると、「他の店を当たります」と言われる。その真横をボールがぽんぽん飛び跳ね階段の下に落ちていき、客の対応とボールの確保どっちを優先すべきか迷っているうちに両方とも逃す。コンビニでレジに並ぶも全く店員が来なかったり、料理をしていると突然停電になって、そのまま足の小指を打ったりする。女の子のために物件のコピーを取ろうとすると何故か鼻血がベトっと原本についてしまい、それが印刷され、対処に手こずっている内に彼女は店を出てしまう。これら彼がアクションをしようとすると、それを無残に断ち切られてしまう姿が物語の後半に機能してくる。
彼女の為に家を案内することになった、彼はデート感覚で彼女を車に乗せる。刺激的な旅に浮かれ、全部自分の思い通りに行くかと思えば、それは否定される。そしてたどり着いた不思議な部屋の中で、彼は時空を超えた残像に飲み込まれてしまう。
通常、そういった異常な空間を作る際には映像を加工して非現実感を出すのですが、本作では演劇的空間を作り上げ、脆く柱が崩れていったり、窓の裏のディスプレイを強調させる工夫で乗り切っている。この天国のような地獄のような世界を観るとやはり瀬田なつき監督ただものではないなと感じる。
朝倉あきの卒倒する程の可愛さも手伝って、私はこの映画を十二分に堪能することができました。