日子(2020)
Days
監督:ツァイ・ミンリャン
出演:リー・カンション、Anong Houngheuangsy etc
評価:40点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
近年のツァイ・ミンリャンはお坊さんがゆっくりゆっくり歩くだけの『行者』やシワシワの老人の顔を延々と収めていく『あなたの顔』といった映画館よりも美術館に展示しておけ系前衛映画ばかり作っている。今回は珍しくドラマがあるらしいと聞いていたのだが監督の意向で字幕なし、セミサイレント映画となっていた。長年、ツァイ・ミンリャンの放浪映画を共にしたリー・カンションの集大成となっており、カイエ・デュ・シネマ星評では6人中4人が星4/4、1人が3/4と年間ベストに入れるレベルの高評価を得ている(尚、1人だけ星1/4でした)。折角なのでカイエ・デュ・シネマでの『日子』事情について語っておこう。フランスでは劇場公開されず、2020/08/31にアルテで放送されました。執筆者のMathieu Macheretは『Hole』や『楽日』、『西瓜』の映画からの引用による誘惑から自身を解放し、都会の喧騒と孤独な身体との関係性を描いていると評価している。チャップリンの『ライムライト』のパントマイムを例に、引き伸ばされた時間のストイックな切り取り方を持てるあまりの詩的表現で絶賛している。そんな『日子』の感想を書いていく。
『日子』あらすじ
郊外の瀟洒な住宅に暮らすカンは首の痛みをいやすために街に出てマッサージ師を呼ぶ。やがて一人の移民労働者がカンが宿泊するホテルを訪れる……。対照的な境遇の二人の男の出会いを描いたツァイ・ミンリャンの最新作。ベルリン映画祭でテディ審査員賞を受賞。
※東京フィルメックスサイトより引用
おっさんずラブbyリー・カンション
「黄昏のおっさんが、町を彷徨いマッサージをしたりする様子を延々と映しているんだけれども、終盤におっさんがおっさんと肉体的関係を結び始める衝撃的な作品なんだ。」
「おっさんずラブだね。」
職場の部下に『日子』の話をしたらこう返ってきた。確かにと腑に落ちた。
おっさんが日向ぼっこしている。だが、それは癒しではなく人生にくたびれたかのような日向ぼっこである。部屋はガランとしていて、謎の桶に水が入っている。ツァイ・ミンリャン映画では影の主役とも言える、水的表現の官能がそこにある。決して観客に媚びたりしない。確かにMathieu Macheretが言う通り映画的引用は皆無で、男が歩く、留まるしかこの映画にはない。外から都会の喧騒の音が聞こえる。ただその音は、例えば仄暗い通路の奥の光に漂っており、男の空間には都会の騒々しさは入ってこない。唯一マッサージ屋の人の肉体的接触により、社会と触れ合うことができるのだ。幽霊のような男、孤独ともとれるし、ただそこにいるだけともとれる。虚無の存在である男が、長い長い時間の中に滞在する。
そしてその終焉に、ようやく肉体的交流を通じて社会と繋がる。これは、社会から取り零された男の、数少ない社会との接点を捉えたポートレートと呼べるだろう。正直、いつものツァイ・ミンリャン映画同様、インスタレーション要素が強すぎてキツかったのだが、最近の作品の中では面白い方でした。
※東京フィルメックスサイトより画像引用
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