『Le Toit de la baleine』幻想世界の中で言葉に取り込まれる人

Le Toit de la baleine(1982)
英題:On Top of the Whale

監督:ラウル・ルイス
出演:Willeke van Ammelrooy、Jean Badin、Fernando Bordeu etc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

今、フランスの映画機関La Cinémathèqueでは独自のVODサービス《HENRI》でなかなか観ることのできない作品を毎日1本配信している。先日チリの巨匠ラウル・ルイスの作品にしてジム・ジャームッシュが絶賛したと言われている『Le Toit de la baleine』が配信されたので観てみました。これが『三つの人生とたった一つの死 』や『見出された時-「失われた時を求めて」より-』を超える幻想世界に満たされた作品でありました。

『Le Toit de la baleine』あらすじ

Au bord de la mer du Nord, un anthropologue et sa femme font la connaissance d’un certain Narciso Campos, qui les invite dans sa maison de Patagonie où se trouvent les deux derniers Indiens Yagan existant au monde.
訳:北海で人類学者とその妻はあるナルシソ・カンポスと出会い、彼はパタゴニアにある彼の家に招待する。
HENRIより引用

幻想世界の中で言葉に取り込まれる人

サイレント映画時代のように赤や緑のフィルター越しの中で人々は会話する。印象派の絵のように、薄く滲んだ草原の彼方にある家がこの映画のテーマでもある現実が侵食される様を象徴しているといえる。元々ラウル・ルイス監督はチリの先住民に関するドキュメンタリーの制作を計画しており、先住民に取材を行なっていた際に出てきたアイデアが本作を構成している。先住民は、内輪で話す時と、対外的に話す時では違う言語を使用していることがインタビューで明らかになったのだ。

そしてこの映画は、文明人という言葉が持つ先住民を下に見る姿勢というものを捉えている。前半は、文化人類学者が気取って会話する場面が映し出される。スノッブな雰囲気が画面全体から漂う。それがパタゴニアの家に映り、先住民と対話をする。チリに《色眼鏡》という言葉があるかどうかは知らないが、現実離れした空間を色彩豊かなフィルターを通して湾曲させながら先住民に迫る。そして先住民を観察してやろうという上から目線な態度は、段々と先住民が持つ世界の中に取り込まれていくのだ。

ワールドシネマは時として、先進国の好奇心を刺激する為の消費コンテンツに陥ってしまう。ラウル・ルイスは自らがそれに陥っていたことを認知し、その構図を得意の演出でコーティングしてみせたのだ。

この作品は日本では無名な作品ですが、ワールドシネマを批判的視線で見る上で重要な作品と言えよう。

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