『ヘイト・ユー・ギブ あなたがくれた憎しみ』今、ブラックムービーが熱い件

ヘイト・ユー・ギブ あなたがくれた憎しみ(2018)
The Hate U Give

監督:ジョージ・ティルマン・ジュニア
出演:アマンドラ・ステンバーグ、レジーナ・ホール、ラッセル・ホーンズビー、KJ・アパetc

評価:60点

2016年の『ムーンライト

』、2017年の『ゲット・アウト』の大躍進により、今アメリカでブラックムービーに対する関心が集まっている。今年のアカデミー賞でも『ブラック・パンサー

』、『ブラック・クランズマン

』、『ビール・ストリートの恋人たち』と3本のブラックムービーに注目が集まると予想されている。そして、ネタ不足、慢性的な表現不足に悩まされているアメリカ映画界に新風を吹かせている。今のブラックムービーは、かつてシドニー・ポワチエが歴史的には快挙であるが、実態は結局白人の言いなり、善良な市民を演じていた時代、それに対して白人に対する嫌悪をアクションという形でぶつけたブラックスプロイテーション、そしてスパイク・リー大先生が開拓した批評的黒人と白人の関係性全てを絶妙な塩梅で組み合わせ、エンターテイメントとしてもアートとしても、社会的メッセージ性の観点からも優れたものを作り出している。丁度、70年代後半サウスブロンクスで、グラフィック、音楽、ダンスを複合的に組み合わせて、ヒップホップという未知なる芸術を作ったように。

さて、今回鑑賞した『The Hate U Give』は、ブンブンの感性にこそ合わなかったものの、学校の授業で観せたいと思うほど「差別」の浸透がどういうものかを教えてくれる作品だった。先日紹介した『Blindspotting』とほとんどプロットが同じで、ブンブンはこちらの方が芸術面でも優れていると感じたのだが、学校で上映するとしたらやはり『The Hate U Give』の方が適していると感じた。こちらの方が、岩崎書店から原作本『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』が出ているので、英語の授業で、本作を英語字幕付きで上映し、原作本もあるよと紹介したら、良い英語教育になると思う(英語はツールなので、やはり興味を促し学ぶ視点を与えることが重要だと思う)。

『The Hate U Give』あらすじ

スター・カーター16歳。彼女は、低所得者の黒人が住む地域から富裕層の白人が多く通う学校に通学していた。差別的な目線はあれど、白人の恋人がいるし、割となんとか学校生活を送っていた。ある日、親友のカリンとドライブをしていると警察官に止められた。日頃、横暴な態度を取る警察官に憤りを感じているカリンは、怒りを抑えられない。なんとか彼を静止させたのだが、ある誤解から彼は警察官に射殺されてしまう。そして黒人と白人の対立が強まり、デモにまで発展してしまうのだ…

傍観者という視点を大切にする

Blindspotting

』評でも書いたのだが、この手の差別に対抗する様を描いた作品だと、どうしても当事者意識目線で映画は語られてしまう。ただ、実際には警察に暴行されたり殺されたりしても、なかなか声を挙げられない。例え、事件がきっかけで大規模なデモが発生しても、どこか当事者の手から離れてしまっている感じがする。そういう、物語の方が多い気がする。そして本作は『Blindspotting』、『ブラック・クランズマン』同様、デモや暴動から一歩引いた目線で「差別」と向き合っている。

主人公のスターは、貧困層出身の生徒だが、スクールカースト最下位という訳ではなく、割とそこそこのポジションでなんとか平静を保っている。しかし、黒人、貧乏人というレッテルからは逃れることができず、富裕層の白人ギャルからは蔑視の目線を送られる。それでも、「んなもん知ったことか」と白人のカレシと堂々キスを交わしたりする。そんな彼女に降りかかった悲劇。それは白人警察官に、親友が射殺されたことだ。夜な夜なドライブしていると、警察官に止められる。警察官は差別的な目線で横暴な態度を取る。それに親友はブチギレる。これはマズイと、スマホで証拠を撮ろうとすると、警察官は、

「おい、何やってる?撮るんじゃねぇ」

と怒鳴り散らすのだ。

そして、一悶着の末に、親友は射殺されてしまう。

葬儀が行われると共に、スターの周りでは警察官に対する憎悪が募り、抗議デモへシフトしていく。では、彼女はその代表としてフロントラインに立つのか?それは違う。哀しみは心に残れど、彼女の生活自体は平凡に時が流れるのだ。そして、周りがドンドン暴徒化していく。それにより、白人ギャルから嫌がらせを受ける。それでも、よくある映画のように劇的に状況が変わることはないのだ。

本作は、冷静に、抗議と暴動の差を見つめ直す。もちろん、不正義に対する抗議は大事だ。市民が声をあげることで世の中はよくなっていく。しかし、それが暴徒と化して、暴力が支配するようになると、それは被害者も加害者である。その対比として、暴動シーンと、警察の暴力に対して市民が一丸となりスマホを向けるシークエンスをしっかり描写する。

これは日本公開してほしいのだが、配給が20世紀フォックスだけあって、『Love, サイモン 17歳の告白

』や『アンセイン

』のように配信スルーになりそうだ。うーん

日本で3/13配信

20世紀FOXホームエンターテイメントによると、3/13(水)より『ヘイト・ユー・ギブ あなたがくれた憎しみ』という邦題で配信スルーすることが決まりました。おぅ…無念。

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