【酷評】『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』キネ旬1位作品は詩と映画を履き違えた最高密度の駄作だ

映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ(2017)

監督:石井裕也
出演:石橋静河、池松壮亮、
松田龍平、市川実日子etc

評価:10点

2017年度キネマ旬報ベストテン日本映画1位になった。公開当時、私の映画仲間の間では評判が微妙且つ研修で忙しくスルーしていたのだが、新宿ピカデリーで再上映されるとのことだったので行ってみた。

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』あらすじ

最果タヒの詩集の映画化。看護婦の仕事をする傍ら、夜はガールズバーで働く美香は社会にどことなく不安と孤独を感じていた。一方、片目しか見えない土方の慎二は周りの人と話が噛み合わず社会に閉塞感を感じていた。そんな二人が出会い、不器用ながらも惹かれあっていく…

夜空は最高密度の駄作だ

酷い、酷すぎる。ワースト1位の間違いでは?と疑うほどに酷かった。これに比べたら『三度目の殺人

』や『光(河瀬直美)』なんかは映画史に残る名作だ。

ここでは、3つの観点から不満点を挙げておこう。

不満点1:詩と映画を履き違えている

まず、詩を映画にすることを石井裕也監督は勘違いしている。いくら心の声だからとは言え、詩をそのまま台詞としてトレースにトレースを重ねるのはよろしくない。何故ならば、映画、それも現代劇として考えた際、台詞は口語で語られなくてはいけないからだ。ファンタジーの世界であれば、アニメであれば文語体で物語を進めるのに違和感はない。『夜は短し歩けよ乙女』のように、文語のリズムが世界観を繊細に作り上げている。あれはアニメという非現実のフィルターを通じて描くから面白い。しかしリアリズムが浮き彫りになる現代劇において文語体で語ると、非常に違和感を覚える。なんたって、日常でこんな文語体で話す人はいないからだ。

同じく詩を扱った映画『パターソン

』と比較してみると良い。あちらは、日常シーンは普通の会話だ。詩を作る過程を強調する為にのみ詩的表現を使っている。だからこそ、退屈な日々に差し込む変化の陽光としての『詩』が美しかった訳だ。

本作は、ただただ原文を羅列しており、詩とは何かという洞察力に欠けていた。だから、池松壮亮と石橋静河の演技が下手に見えてしまう。特に池松壮亮は魅せ方変えればめちゃくちゃ上手かった筈なので残念だ。

不満点2:見せかけだけの映画表現

二つ目に、映画的表現に迷いがあるということだ。水をレイヤーとして使用したり、池松壮亮扮する片目しか見えない土方から見る世界を、画面2分割で分けるといった斬新な表現が多用されているが、どれも見かけ倒しの薄っぺらいものだ。

特に昨日『5パーセントの奇跡

』という、視覚の表現に優れた作品を見ているだけに、片目から見る世界はそんなんじゃないだろう、画面分割に持たせる意味が少なすぎるのではと感じた。

また、路上ライブシーンも頭を抱えるほど、痛く、そして薄すぎるメッセージに腹が立ってきた。何が、東京、頑張れーだ!

極め付けは、取って付けたかのような地震描写。やるならやる、やらないならやらないとしっかり決めてほしい。最近の邦画は、『あゝ、荒野』もそうだが、現代日本人の不安をすぐ地震に結びつけようとする悪い癖がある。東日本大震災を経験した者にとって誰でもあれはトラウマだ。しかし地震=悲しみという単純な方程式は我々の心にないはずである。簡単に哀しみの表現として使わないでほしい。簡単に地震を映画的メタファーとして分類しないでほしい。

不満点3:爆発力がない

さて三つ目。リア充爆発しろ系映画としての爆発力がないということだ。例えば、上記2つの問題点があったとしても、映画としての爆発力があれば、外に発散できない陰鬱な現代人の怒りの映像化として非常に評価できたことでしょう。

しかし本作は、コミュ症を極めた片目の土方と根暗な看護婦面倒臭い2大巨塔が、世の中の愚痴を言うだけ。放射能、貧困、障がい、ヒエラルキー。リア充カップルを見るや否や「死ね」と言わんばかりの負のオーラを出す。この映画はアクションやドラマティックな展開にこの負の掃き溜めをぶつけない為、観ている方はおめぇらこそ死んじまえ!と叫びたくなる。特に池松壮亮扮する土方にはYOU MUST DIE!と言いたくなった。クズが出てくる映画は面白い。ただ、そのクズに魅力を感じなければそれは苦痛。ましてや、クズ野郎に対してYOU MUST DIE!と思ってしまう映画は映画として失格だと言える。

なので、この『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は全くもって評価することのできない作品でした。

2017年キネマ旬報ベストテン発表

ただ、本作を観て思ったのは、日本社会かなり病んでいる。厭世的な人が増えているということだ。キネマ旬報ベストテン外国映画の1位も地の底で這いつくばる男を描いた『わたしは、ダニエル・ブレイク』と本作に似た作品だ。日本映画ベストテンには『あゝ、荒野』なんていうこれまた厭世的な作品が入っている。

ちょっと日本ヤバイなと不安になりました。

そんなキネマ旬報ベストテンの結果を下記に載せておきます。

日本映画ベストテン

1位:映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
2位:花筐/HANAGATAMI

3位:あゝ、荒野 前後編
4位:幼な子われらに生まれ
5位:散歩する侵略者

6位:バンコクナイツ

7位:彼女の人生は間違いじゃない
8位:三度目の殺人

9位:彼女がその名を知らない鳥たち

10位:彼らが本気で編むときは、

まあ、キネマ旬報らしいラインナップと言えよう。ここ数年は、ブンブンの好きな映画が映画芸術寄りになってきてしまっているので、このベストテンには辟易したりする。『三度目の殺人』『彼女がその名を知らない鳥たち』にはうーんと言わざる得ない。無論、『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』『あゝ、荒野 前後編』の破壊力の方が強いのだが…

外国映画ベストテン

1位:わたしは、ダニエル・ブレイク

2位:パターソン

3位:マンチェスター・バイ・ザ・シー

4位:ダンケルク

5位:立ち去った女

6位:沈黙-サイレンス-

7位:希望のかなた

8位:ドリーム

9位:ムーンライト

10位:ラ・ラ・ランド

今年は全部観ていました。やはり、キネ旬は白黒&長い映画フェチらしく『立ち去った女』はしっかりランクインしていました。日本映画部門には、年末公開、投票期限ギリギリだったにもかかわらず『花筐/HANAGATAMI』がランクインしていたのを考えると、『否定と肯定』も入ってよかったのでは?と思った。まあ、その代わりに同じく12月公開の『希望のかなた』が入っていたので大満足だ。

文化映画ベストテン

1位:人生フルーツ

2位:標的の島 風(かじ)かたか
3位:やさしくなあに ~奈緒ちゃんと家族の35年~
4位:ウォーナーの謎のリスト
5位:谺雄二 ハンセン病とともに生きる 熊笹の尾根の生涯
6位:沈黙 立ち上がる慰安婦
7位:米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー
8位:笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ
9位:まなぶ 通信制中学60年の空白を越えて
10位:廻り神楽

相変わらず、ポレポレ東中野案件で固められた部門だ。1位の『人生フルーツ』に関しては大傑作ですが。

それにしても、シネフィルの間ですら話題にならなかった作品ばかりなのが気になる。一体誰が投票しているのだろうか?一体何人もの映画人がこれらの映画全部観たのだろうか?4位の『ウォーナーの謎のリスト』なんかFilmarksでレビュー書いているの3人しかいなかったぞw意外と、シネフィル界隈で大絶賛された『息の跡』が入っていないのが意外だった。映画芸術案件かな?

個人賞

主演女優賞:蒼井優
主演男優賞:菅田将暉
助演女優賞:田中麗奈
助演男優賞:ヤン・イクチュン
新人女優賞:石橋静河
新人男優賞:山田涼介
監督賞:大林宣彦
脚本賞:石井裕也
外国映画監督賞:ケン・ローチ

何と言っても新人男優賞!山田涼介がいるという大草原不可避事態が発生!!山田涼介って新人男優でもなんでもないし、彼の2017年出演作品は『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『鋼の錬金術師

』。前者を観ていないだけになんとも言えないが、『ハルチカ

』の佐藤勝利やハイローシリーズのターミネーター小林直己など他にも新人男優賞に値する人たくさんいた気がしました。

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