『ディケイシャ』朽ち果てたフィルムから生じる霊圧

ディケイシャ(2002)
Decasia

監督:ビル・モリソン

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『フィルム 私たちの記憶装置』の中でヤバめのサイレント映画『ディケイシャ』が紹介されており、観たくなったので鑑賞してみた。監督のビル・モリソンは『Dawson City: Frozen Time』で知られている監督であり、フッテージを用いた実験映画を作っているイメージがある。近年ではボディカメラと監視カメラでシカゴ警察官ディラン・ハレーによって殺害されたハリト・スヌープ・オーガスタスの事件を検証した『Incident』がアカデミー賞の短編ドキュメンタリー賞にノミネートされている。ビル・モリソンは日本でこそあまり知られていないものの、尖った監督としてやはり注目されるべきだなと感じた。

『ディケイシャ』あらすじ

アメリカ各地のアーカイブが所蔵する、著しく劣化(decay)した無声映画フィルムをコラージュした作品。アメリカ合衆国ナショナル・フィルム・レジストリーに登録された最も新しい年代の映画でもある。元々は、2001年にスイスで上演されたライヴ・パフォーマンスのプロジェクト(オーケストラの演奏と三面映写の組み合わせ)に由来する。コマを引き延ばすことにより、映画の運動は写真の静止へと近づき、記録された被写体と記録するフィルムの生と死が交錯する。

※東京国立近代美術館フィルムセンターより引用

朽ち果てたフィルムから生じる霊圧

本作はアメリカ国立フィルム登録簿に最初に登録された21世紀の映画である。朽ち果てたサイレント映画のフッテージを再構成することで心霊映像のようなものを生み出し、物理的死と失われていく過去による死を重ねていくような内容となっている。

映画は不安を煽る音楽に合わせてぐちゃぐちゃなイメージを並べていく。中央が崩壊したイメージに始まり、左側が湾曲した空間からロケット型の乗り物が右へと流れていく様、白黒がバグのように反転した世界が展開される。中盤になってくると心霊映像の意味合いが強まっていく。観覧車の奥行きある回転運動に層として静止した白い服を着た集団が挿入されていく。観覧車=遊園地といった快楽的イメージの背後に死の不気味さが見え隠れする。そして、連続的に横を向いている人々がゆっくりカメラを凝視するショットが提示され背筋が凍る。

さらには『フィルム 私たちの記憶装置』でも強調されていたぐちゃぐちゃな空間へ向かって殴る男がしばらく映し出されるのだが、これまた得体の知れない恐怖があった。こうした映画を観ると、言語化できない世界にこそ恐怖があり、その言語し難き世界へ身を投じることに豊かさがあるんだなと痛感した。