『デスペア 光明への旅』ファスビンダー流の関心領域

デスペア 光明への旅(1977)
Despair – Eine Reise Ins Licht

監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
出演:フォルカー・シュペングラー、クラウス・レーヴィチュ、ゴットフリード・ジョン、ハーク・ボームetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

IVC社から満を持してライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『デスペア 光明への旅』のブルーレイが発売されました。本作は映画評論家・柳下毅一郎のアイコンにもなっている作品であり、ファスビンダー作品の中でも有名な一本でありながら日本では観る手段がほとんどなかった幻の映画である。早速入手してみたので観た。

『デスペア 光明への旅』あらすじ

ナチス台頭前夜、世界恐慌に揺れるベルリン。亡命ロシア人のヘルマンは、チョコレート工場の経営者。彼は妻の社会的無関心に辟易し、空虚な日常を送っている。心の中で常に新しい生活を始め、自分のアイデンティティーが変わることを望んでおり、その思いは少しずつ彼の精神を蝕んでいった。ある日、彼は自分と瓜二つの浮浪者と出会い、彼が自身の分身だと思いこむ。

※IVCより引用

ファスビンダー流の関心領域

本作はウラジミール・ナボコフ「絶望」を映画化した作品である。ナチス台頭前夜のベルリン。ロシア人移民のヘルマンはチョコレート工場の経営者としてそこそこ成功していたのだが、妻との関係性に悩んでおり神経症気味になっていた。そんなある日、浮浪者と出会うのだが、自分の分身と思い込む。

映画は自分の心の中にある別の人格を外部化したい欲動が描かれている。社会不安の中、自分の生活がたとえ安定していたとしても崩壊してしまうのかもしれないといった不安がある。そして意外と身近な人、それこそ妻とはその不安は共有されないものとなる。映画はカット割りで、自分が自分を覗き込む鏡像のような幻覚を取り入れながら浮浪者とエンカウントする。ありえたかもしれない人生。たまたま運がよかったから経営者であるのであって、本当はこっちの世界の住民だったのかもしれないと想うことで浮浪者に歩み寄るようになる。他者からすると全く別人なのだが、ヘルマンにとっては同相のような人物である。このような心理は文学向きではあり、構造が掴めるまでとっつきにくさがあったのだが、構造が見えてからは面白く感じた一本であった。これがIVC社から今リリースされた点に政治的メッセージがありそうである。