【EUフィルムデーズ2026】『夏の終わりの訪問者』空間と繋がりの曖昧さ

夏の終わりの訪問者(2025)
The Visitor

監督:ヴィータウタス・カトゥクス
出演:Darius Šilėnas、Vismantė Ruzgaitė、Arvydas Dapsys etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

EUフィルムデーズが始まったので、気になっていたリトアニア映画『夏の終わりの訪問者』を観た。上映後に字幕を担当された上條葉月氏によるトークショーで『トキシック』の撮影監督の作品だと知り、この奇妙な撮影に納得がいった。

『夏の終わりの訪問者』あらすじ

8月の終わり。30代半ばのダニエリュスは実家のマンションを売却するため、妻と息子をノルウェーの家に残し、一人リトアニアのリゾート地にある故郷の街に戻る。滞在中の住民との交流にもかつてほどの温かさは感じられないが、置き去りにしてきた過去を捨てきれない彼は、なかなかそこを去ろうとしない─。行き先の定まらない人生のひとときを、独特のカメラワークとオフビートなタッチで映し出す。監督は『トクシック』(EUフィルムデーズ2024にて上映)の撮影監督ヴィータウタス・カトゥクス。2025年カルロ・ヴィヴァリ映画祭最優秀監督賞受賞作。

EUフィルムデーズより引用

空間と繋がりの曖昧さ

ゆるいバカンス映画かと思いきや、いきなり地味ながらもエゲつないカメラワークが展開される。部屋から男女が右へとはけていく。しかし、左側、僅かに見える鏡から死角となった右側が筒抜けであり、この狭苦しい鏡でもって対話の運動が描かれるのである。30代半ばの中年男性ダニエリュスは実家のマンションを売却しに故郷へやって来る。映画は寂れたリゾート地の祭と部屋を往復することとなる。部屋は親密なる場のクリシェとして使われるのだが、そのアプローチは独特であり、生きているような死んでいるような空間、公私の境目が曖昧となった空間として用いられる。つまり、ペドロ・コスタ『ヴァンダの部屋』に近い活用のされ方をしているのだ。リゾート地も親密な場のようでどこかギコちない。景品の気球を手に入れる場面も手に入れるやふくらみを潰してしまうし、不自然なマーヴィン・ゲイへの言及などが行われるのだ。また、演出も時折夢のようなものが挿入され、小島に進出する子どもたちや放置された赤ん坊をランティモス映画的ダンスで取り囲む。ストーリーも曖昧なのだが、そのアンニュイな映像詩が遅効性の面白さを生み出していく。中年の危機だろうか、自分の拠り所を失った存在が彷徨いながら群から群へと移動し、世界の外側に囚われている。バカンス映画でありながらも悪夢のような世界観、でも露悪的な悪夢に陥らないニュートラルな感情を捉えた映像に惹き込まれた。