『ポトフ 美食家と料理人』美食家と料理人が木漏れ日に光る

ポトフ 美食家と料理人(2023)
原題:Le pot-au-feu de Dodin Bouffant
英題:The Pot-au-Feu

監督:トラン・アン・ユン
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル、ピエール・ガニェールetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第76回カンヌ国際映画祭にてトラン・アン・ユンの『ポトフ 美食家と料理人』が監督賞を受賞した。トラン・アン・ユンといえば『青いパパイヤの香り』という最強フード映画を撮っているが、今回、その時代からパワーアップして帰ってきた。実はカンヌ国際映画祭監督賞は微妙に日本語訳が誤っている。原語では”Prix de la mise en scène”、つまり「演出」に対する賞なのである。実際に過去の受賞作品を確認するとレオス・カラックス『アネット』やソフィア・コッポラ『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』、ホウ・シャオシェン『黒衣の刺客』などといった衣裳や美術に力を入れた作品が撮りやすかったりする。確かに私はまだ第76回カンヌ国際映画祭コンペティション作品を全部観たわけではないが、本作が監督賞を獲ったのは必然だと感じた。本作は日本では2023/12/15(金)より公開である。試写で鑑賞したので感想を書いていく。

『ポトフ 美食家と料理人』あらすじ

〈⾷〉を追求し芸術にまで⾼めた美⾷家ドダンと、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理⼈ウージェニー。⼆⼈が⽣み出した極上の料理は⼈々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。ある時、ユーラシア皇太⼦から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない⼤量の料理にうんざりする。〈⾷〉の真髄を⽰すべく、最もシンプルな料理〈ポトフ〉で皇太⼦をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは⼈⽣初の挑戦として、すべて⾃分の⼿で作る渾⾝の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが──。

Filmarksより引用

美食家と料理人が木漏れ日に光る

美食家ドダン(ブノワ・マジメル)と料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は長年の絆で結ばれている。二人のおもてなしは来賓をアッと驚かせるほどの知的て魅力的なものである。そんなある日、センスのないメニューリストに満足する皇太子に「ポトフ」で勝負することにするが、ウージェニーが倒れてしまう。そこで彼が一肌脱ぎ、彼女のために料理を作ることとなる。

第一部では二人の連携プレイが提示される。キッチンにてウージェニーが洗練された手つきで、メレンゲの中にアイスクリームを閉じ込めたノルウェー風オムレツを作る。それをドダンがサロンの場で炙ってみせ、解説することで食事という体験を極上のものへと仕上げていく。第二部では、彼が料理をするのだが、彼女とは違い野生的である。鶏肉の内臓を、巨体が繊細な動きを阻害するように大胆に取る。一方で、その不器用にも見える運動を制御して彫刻のような飾りを作っていく。この二つの運動が、黄金色の木漏れ日差し込む、翳りあるキッチンの中で輝き、それが料理を魅力的なものへと引き立てていく。トリュフを腹に隠した鶏肉。そこにスープが注ぎ込まれる。空腹な時に観たら、三途の川が見えてくるであろう光景にひたすら酔いしれ、いつまでもその時が続いてほしいと思った。

第三部は、観た人だけのお楽しみである。自らの手で料理をし、さらに自分を高めたドダンの次なるステージはどこにあるのか。料理場とサロンだけが舞台のミニマムな作品ながらも実に豊かで面白い作品であった。

2023/12/15(金)より日本公開である。

P.S.高尚に語っているが、内容自体は「美味しんぼ」に近いです。ブノワ・マジメルが段々と海原雄山に見えてきます。「美味しんぼ」ファンに一番オススメしたい作品である。

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※映画.comより画像引用

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