バーナデット ママは行方不明(2019)
Where’d You Go, Bernadette
監督:リチャード・リンクレイター
出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップ、エマ・ネルソン、クリステン・ウィグetc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
リチャード・リンクレイターは『スキャナー・ダークリー』のような理論ゴリゴリの実験映画から『スクール・オブ・ロック』のような軽快な作品まで幅広く手がけている。4年ぐらい日本公開されていなかった”Where’d You Go, Bernadette”がようやく邦題『バーナデット ママは行方不明』で陽の目を浴びた。今回は比較的後者である。しかし、人間と向き合ってきた彼の職人業が光る作品であった。
『バーナデット ママは行方不明』あらすじ
「6才のボクが、大人になるまで。」のリチャード・リンクレイター監督がケイト・ブランシェットを主演に迎え、マリア・センプルのベストセラー小説「バーナデットをさがせ!」を実写映画化したヒューマンコメディ。
シアトルに暮らす専業主婦のバーナデットは、一流企業に勤める夫や親友のような関係の愛娘に囲まれ、幸せな毎日を送っているかにみえた。しかし彼女は極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちと上手くつきあうことができない。かつて天才建築家として活躍しながらも夢を諦めた過去を持つ彼女は、現在の退屈な日々に次第に息苦しさを募らせていく。やがてある事件をきっかけについに限界を感じたバーナデットは、家族の前からこつ然と姿を消し、南極へと向かう。
共演は「君が生きた証」のビリー・クラダップ、「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」のクリステン・ウィグ。
人はそう簡単に失踪できない
タイトルや予告編のイメージから『LIFE!』のような自分探しの旅に出る物語かと思いきや、1時間以上経ってようやく失踪する。そこでハッとする。現実において人間はそう簡単に失踪できるものではないのだ。独身サラリーマンだったら会社が苦になって失踪するみたいなことはあるかもしれない。でも人間そこまで吹っ切れることはできず、臨界点ギリギリを押し殺して労働する他ない。これが主婦だと尚更で、例え離婚しても長らく育児に注力していたとなると、仕事は稼ぎはみたいな話になり、より一層自分のいる家族をはじめとするコミュニティから出られない。本作は、そういった逃げ出したくても逃げられず、自分を押し殺して生きる人間像を描いている。
ずっとイライラピリピリしながら日常のタスクをこなしていく。限界に達していても前に進むしかない。そんな彼女の心のダムの決壊が予告編でも提示される土砂が家に侵入する場面で描かれる。この映画にとって唯一の過剰な表現であり、映画的な演出となっている。実は彼女が自分探しの旅に出る場面は、ロードムービーにありがちな開放感に満ちている訳ではない。地味なのだ。自分探しの旅に出たことがある人なら分かるだろう。この描写はリアルだ。確かに一期一会もあったりするだろうが、人付き合いが苦手な者にとっての旅は噛み締めるようなものであり、そこまでドラマチックなことは起きないし、景色も若干くすんで見えたりする。
リチャード・リンクレイターは映画のルックスをしながら、ドキュメンタリーに近いもとい、カメラには映らないような人間活動を捉えるのに長けている。さりげなくとんでもないことをやってのける監督だなと感じた。
※映画.comより画像引用