『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』ドラマ映画にしては珍しく洋画のライティングをしている

岸辺露伴 ルーヴルへ行く(2023)

監督:渡辺一貴
出演:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信etc

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

漫画の実写化を日本でやるとなるとどうしても金のかかった学芸会になりがちだ。そもそも漫画のファッションを現実に置き換えた時に違和感がないようにするのはハードルが高すぎる。しかし、『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフをドラマ化した『岸辺露伴は動かない』はやたらと評判が高い。『ジョジョの奇妙な冒険』といえば、独特な擬音とスタンドシステムが特徴的である。画もヴィジュアル重視で実写化に不向きなように思える。しかし、ドラマでは一般人からスタンドを見た時の視点に注力することによって上手いことチューニングしたらしい。映画版がアマプラに来ていたので観た。ドラマの映画化となると、そもそも映画のルックスをしていないことが多い。ターゲット層も映画ファンよりドラマファンなので、そこに目くじら立ててもしょうがないのだが、それでも映画ファンとしては気になってしまうし不安を抱く。だが、それは杞憂であった。

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』あらすじ

荒木飛呂彦の大人気コミック「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ作品で、高橋一生の主演でテレビドラマ化されて2020年にNHKで放送された「岸辺露伴は動かない」の劇場版。

相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力「ヘブンズ・ドアー」を備えた漫画家・岸辺露伴。青年時代、露伴は淡い思いを抱いていた女性から、この世で最も邪悪な「最も黒い絵」の噂を聞いた。それから時がたち、その絵がフランスのルーブル美術館に所蔵されていることを知った露伴は新作執筆の取材と、かつてのかすかな慕情のためにフランスを訪れる。しかし、美術館職員に「黒い絵」の存在を知る者はなく、データベースによってヒットしたその保管場所は、今はもう使われていないはずの地下倉庫「Z-13倉庫」だった。

ドラマ版から続投となる露伴役の高橋、担当編集者・泉京香役の飯豊まりえのほか、木村文乃、長尾謙杜、安藤政信、美波らが顔をそろえる。監督・渡辺一貴、脚本・小林靖子、音楽・菊地成孔、人物デザイン監修・柘植伊佐夫と、ドラマ版のスタッフが再結集した。

映画.comより引用

ドラマ映画にしては珍しく洋画のライティングをしている

胡散臭いアンティークショップに岸辺露伴がやってくる。初めてのはずなのに、色紙が置いてある。このことから既にこの店が闇に通じていることが分かる。やがて店員と揉め始める。狭い店内。店員は構図を知っている。彼がヤバい存在だと知り、去ろうとするのだが、岸辺露伴は細い通路を引き返し、クルッと左へ向き、前へ躙り寄る。そして「ヘブンズ・ドアー」と唱えると、二人の店員は倒れる。顔が本のようになり、ほしい情報を奪って露伴は去っていく。高橋一生が醸し出す甘美なナルシスト演技が、観る者を闇へと誘い。本作のテーマは「闇」で、黒い絵を巡って深淵へと潜っていく。闇に対する渇望を抱く露伴が能力を持ってしても窮地に立たされてしまう闇へと静かに、でも確実に落ちていく。この時のライティングが、ドラマの映画化ではなかなか観ないような本格的なものとなっている。それは単に暗いことを示している訳ではない。暗いだけの映画は数多ある。家のテレビで観ると何が映っているのか分からない時があり、これは良くない闇だと思っている。しかし、本作の闇は、的確に顔の輪郭や敵を捉えていくのである。また、フランスのオフィスシーンは、フランス映画のルックをしており、そこのシーンだけ切り取ってル・シネマやシネスイッチ銀座で上映しても日本映画とは気づかないだろう。そして、この闇を強調させるように太陽が新緑に差し込む光と日本家屋とのコントラストをじっくり魅せる場面が前半にある。これがあるからこそ、闇が際立つ。伝統工芸品を眺めるような作品であった。

※映画.comより画像引用