【YIDFF2023】『不安定な対象 2』3時間の工場見学

不安定な対象 2(2022)
The Unstable Object II

監督:ダニエル・アイゼンバーグ

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

山形国際ドキュメンタリー映画祭2023で上映される3時間ドキュメンタリー『不安定な対象 2』を観た。本作は観察型のドキュメンタリーらしく、フレデリック・ワイズマンを想起させる。だが、実際に観てみると明らかに彼の作品とは違うものを感じた。

『不安定な対象 2』あらすじ

ドイツ、ドゥーダシュタットにあるオットーボック社の義肢製造工場、南フランス、ミヨーにあるメゾン・ファーブルの高級革手袋縫製アトリエ、トルコ、イスタンブールとデュズジェにあるレアルコム社のジーンズ工場という三つの工場での製造工程を「持続的観察」の手法によって徹底的に記録する実験的ドキュメンタリー。消え去る運命にある手仕事の現場に密着した「視覚的思考」の試みでもある、ナレーションも字幕も排した労働のイメージの時間は、私たちを見ることの陶酔へと誘いながら、手による思考と分析の未来への問いかけともなっている。

※YIDFF2023より引用

3時間の工場見学

淡々粛々と機械が動く。人間はじっと待ち、タイミング良く器具を挿入する。また、細かい部品を組み立てていく。そこには会話は発生しない。工場も比較的静かだ。やがて義肢を作っていることが分かる。同様に手袋やジーンズが製造される工程が捉えられる。観察映画といえばフレデリック・ワイズマンが有名だ。彼の作品の場合、人々の対話に力点が置かれている。議論や会話を通じて人間を捉えようとする。一方、本作は人間と機械の動作に力点が置かれている。そう聞くと『カメラを持った男』のように社会の歯車としての人間像を強調している作品に思える。だが、そうは見えないのがこの映画の特徴だ。確かにジーンズを編み込む女性の動きは機械的なのだが、その動作の中には人間の思考を感じさせる。どのようにジーンズを動かせば効率良く次のジーンズに移れるかを考えながら行動しているように見えるのだ。そうした動きは、人間=機械の方程式で描く作品からは出てこない発想に思える。なので、3時間を超える超大作でありながら全く飽きることなく最後まで観ることができた。観察映画は面白いジャンルだと改めて感じた。

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※MUBIより画像引用