【MUBI】『The Plains』YouTube動画に慣れてしまうと…

The Plains(2022)

監督:David Easteal
出演:ANDREW RAKOWSKI、CHERI LECORNU

評価:10点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MUBIで『The Plains』という全編ほとんど車の中で展開される3時間映画が配信されたと話題になり観てみた。映画のほとんどを車の中で描く作品といえば、『10話』や『人生タクシー』などがある。実際に観てみたら複雑な気持ちになった。

『The Plains』あらすじ

Every day at 5pm Andrew, a middle-aged man working a white-collar job in a community legal centre, drives home through Melbourne’s outer suburbs in peak-hour traffic. The long commute affords him time to phone his ailing mother and his wife, and occasionally offer a lift home to a younger colleague.
訳:毎日午後5時、メルボルンの郊外にある法律事務所でホワイトカラーの仕事をしている中年男性アンドリューは、ピーク時の渋滞に巻き込まれながら車で帰宅する。通勤時間が長いので、病弱な母親や妻に電話をかけたり、時には後輩を家まで送ってあげたりする時間がある。

MUBIより引用

YouTube動画に慣れてしまうと…

いわゆる、アルベール・セラが実践している映画の外側系映画である。映画を人生のダイジェストとした際に、その外側にあるものを繋ぎ合わせることでリアリティを出そうとするタイプの作品だ。本作は、男がどんよりとした天気の中、車を走らせ、渋滞に巻き込まれる様子をカットなしで描く。カットが切れても、それは車が発進し、移動する過程を捉えており、車内での話は他愛もない家族の話である。ドラマティックな展開はなく、まるで知らない人の車に乗って、その人のどうでも良い話を延々と聞かされるような時間が流れる。確かに、映画においてこのアプローチは珍しいのかもしれない。一方で、車の中とはプライベート空間であり、人と人とが本音で語り合う場所である。劇映画の中では『ドライブ・マイ・カー』のように本音が吐露される舞台装置として使われている。その要素だけで構成して、映画とは何かを見つめ直そうとしている作品にも見えるが、残念ながらYouTube界隈を歩いてしまう。


例えば、ガーリィレコードのドライブ動画は即興でコントをやりながらも、藤木役のフェニックスに「なんでメガネなんだ?」とツッコめば、法令遵守と返ってくる現実/虚構を往復する笑いが生み出されていく。


VTuber界隈では、トラックを運転するゲーム「Euro Truck Simulator 2」の配信が定期的に行われている。主に女性の配信者がゴツめのトラックに乗りながら雑談をする。リスナーのコメントを拾いながら、設定に準じた物語を紡いだり、雑談をしたりする。その中で突発的に豪快な事故が起きたりする。その無軌道感が面白い。物述有栖さんの場合、可愛らしい見かけに反して、煽り運転を始めたり、セミのモノマネをしながら運転をする珍妙さもあり4時間があっという間に感じる。それゆえに、どんよりとした空間の中、走り続け、これぞユニーク演出だぞと言わんばかりにドローン撮影する『The Plains』は鼻につく作品となってしまった。

まあ、私がYouTube文化を知りすぎたせいでもあるのだが、全く乗れなかった。

※MUBIより画像引用