『おーい!どんちゃん』赤子を拾って幕開ける輝ける青春

おーい!どんちゃん(2021)

監督:沖田修一
出演:どんちゃん、坂口辰平、大塚ヒロタ、遠藤隆太、師岡広明、宮部純子etc

評価:100点



おはようございます、チェ・ブンブンです。

映画界隈で密かに話題となっていた沖田修一監督作『おーい!どんちゃん』。沖田修一監督といえば『さかなのこ』『子供はわかってあげない』『横道世之介』などテーマボリュームに対して2時間を超えてくる作品を発表しているイメージが強い。2時間10分を超えてくる作品が多く、物語進行もスローペースだったりするのだが、気がつけば終わっている体感の短さがある。今回も157分と非常に長いものの、あっという間に終わったといった印象であった。そしてこれが年間ベスト級の大傑作であった。

『おーい!どんちゃん』あらすじ

売れない俳優、道夫、郡司、えのけんの三人が共同で暮らす一軒家にある日、元カノの手紙と共に置いていかれた女の赤ちゃん。彼らはその子を「どんちゃん」と名づける。成長とともに季節は移ろい、どんちゃんとの生活が彼らを少しだけ変えていく。

テアトルシネマグループより引用

赤子を拾って幕開ける輝ける青春

本作は沖田修一の娘が成長する過程の中で、俳優たちと寸劇をしながら完成させていったホームドラマである。まさしくリチャード・リンクレイター『6才のボクが、大人になるまで。』を日本で撮ってみましたといった作品なのだが、沖田修一監督特有の間による笑いと畳み掛けるような高度な画と物語構図によって開いた口が塞がらない内容となっている。冒頭、男が森の中虎を見ているような構図が映し出される。画面外からはタイ語のようなものが聞こえてくるが、段々とガラスの反射によって多重露光のようなものが生み出され、そこが上野動物園だと分かる。三人組の男は同居暮らしをしているのだが、映画俳優志望の男は嫌われているらしい。『ザ・マスター』を真剣に観ている二人に構ってムーブをするもキレられる。だが、ここで使用されるパンダのぬいぐるみが思わぬ伏線となる。

ベランダで人生ゲームをしながら三人は談笑していると、赤子の鳴き声が聞こえる。なんと、玄関に赤子が放置されているのである。しょうがないので引き取って育てることとなる三人。そこでパンダのぬいぐるみが使われるのである。このように画面に何気なく登場したものが次々と伏線回収されていき、タイトルの『おーい!どんちゃん』ですらビックリするところで強調されていく。これはある意味人生そのものを象徴している。一見すると何気ない人生の1ページが意外なところでくっつき時には人生を変えてしまうトリガーとなる。でも、人生の「今」時点ではそんな未来は分からない。将来どうなるか分からず、モラトリアムに生きる者たちは必死に前進する。

CMのオーディションでは、必死すぎてダサく見える、共感性羞恥心を刺激するような場面も多い。しかし、その積み重ねで得られる人生の転機が訪れた時、思わず涙してしまうのである。この瞬間を捉えるためのホームビデオというフォーマットは慧眼だ。ホームビデオとは、なんとなくカメラを回して「今」を捉えるもので、それは映画を撮る以上に決定的瞬間と遭遇する可能性が高いように見える。実際に、まだ作品の構図を理解していないであろう「どんちゃん」がおもむろに笑いながら語りかける場面に映画の神様が降りたような美しさがあった。

正直、これ以上語ることは控えたい。

実際に観て、抱腹絶倒衝撃の世界に浸ってほしい。『横道世之介』のような輝ける青春ものが観たい人にはたまらない作品であろう。

※映画.comより画像引用

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