何も知らない夜(2021)
A Night of Knowing Nothing
監督:パヤル・カパーリヤー
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
山形国際ドキュメンタリー映画祭にカンヌで話題となった作品『何も知らない夜』が来ていた。本作は一時期MUBIでも配信されていた作品である。手紙を通じてインド社会を語る作品なのだがこれが独特な映画であった。
『何も知らない夜』あらすじ
映画を学ぶ学生のL(エル)が恋人へあてた手紙が学生寮の片隅で発見された。女性の朗読に託された架空の物語は、Lの恋愛の破局の背後にあるカースト制へと導かれ、さらに2016年に実際に起こった政府への抗議運動、極右政党とヒンドゥー至上主義者による学生運動の弾圧事件へと接続される。若者の日常の光景、Lの悲恋の逸話、路上デモや警官との衝突のシーンにおける緊迫した闘争の様子がモノクロームの映像の中で融合し、フィクションと現実が境界をなくしていく。抵抗する者たちの情熱や信念、映画作家たちの意志の記録とともにインドの現在を描き出す。
手紙から紐解くインド社会
本作は架空の手紙の文通によってインド映画テレビ学院で2015年に起きた学生デモの空気感を伝えていく。画は当時のフッテージを白黒ベースで繋ぎ合わせており、何もない空間が段々と雪崩れ込む警察との凄惨な闘いに発展していく映像がおもむろに挿入されてギョッとする。この手のアプローチは今年のベルリン国際映画祭で上映された『BETWEEN REVOLUTIONS』に通じるものがあるが、それと比べると実験映画要素も多い。例えば、夜の森のような空間から段々と壁画のようなものが浮かび上がってくる。映画のアクセントとしてオレンジトーンのザラ付いたフッテージが挿入されるといったメリハリのある演出が際立っていた。デモや紛争を扱ったドキュメンタリーはその騒乱の渦中に入ることが難しい可能性が高く、ドキュメンタリー映画界隈ではアニメを使うなどといった工夫が凝らされる。架空の手紙を使った語り口は新鮮に感じた。
※MUBIより画像引用