『冬眠さえできれば/If Only I Could Hibernate』モンゴル、学業か?家庭か?

If Only I Could Hibernate(2023)

監督:ゾルジャルガル・プレブダシ
出演:Batmandakh Batchuluun,Ganchimeg Sandagdorj,Batsaikhan Battulga etc

評価:65点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

第76回カンヌ国際映画祭ある視点部門に東京フィルメックス「タレンツ・トーキョー」出身のモンゴル監督ゾルジャルガル・プレブダシの新作『If Only I Could Hibernate』が出品されていた。モンゴル映画は『セールス・ガールの考現学』が面白かったので少し注目しているのだが、本作を観ると本格的にモンゴル映画は追った方が良さそうだと感じた。

『If Only I Could Hibernate』あらすじ

A poor but prideful teenage boy Ulzii determines to win a Physics competition for a scholarship, but his illiterate mother finds a job in the countryside and leaves him with his siblings in the middle of the winter.
訳:貧しいがプライドの高い10代の少年ウルジイは、奨学金を得るために物理学コンテストで優勝することを決意するが、文盲の母親は田舎で仕事を見つけ、真冬に彼を兄弟に預ける。

IMDbより引用

モンゴル、学業か?家庭か?

物理が得意で奨学金のためにコンテストに参加しようと考えているウルジイ。しかし、家庭は貧しく。文盲の母は疲れ切っている。「あんた金稼いでないじゃない!」と叫ぶ母は、ウルジイに家庭のことを任せ仕事に専念しようとする。ウルジイは学業と家庭との間で苦しむ中で闇の仕事に手をつけてしまう。本作は貧しいゲルの生活と近代的な建物との対比を行うことで、ウルジイの引き裂かれる想いを表現している。これ自体は容易に想像できる描写であるのだが、本作ではそこにユニークな描写を織り交ぜていく。

例えば、ウルジイが人の家に行く場面。泣き叫ぶ赤ちゃんをあやしているところを彼はおもむろに靴下を脱ぎ捨て、赤ちゃんの鼻先に持っていく。激臭で泣かせる場面がある。これは学業を優先したくても弟や妹の世話をしないといけない障壁に対する無意識な憎悪を象徴しているような場面なのだが、あまり観たことのない演出で驚かされる。

一方で、成績優秀で物理学コンテスト優勝を目指そうとしているのだが彼の優秀さがイマイチ伝わってこないのが難点だったりする。確かに地頭の良さで片付けられてはしまうのだが、なぜ物理学なのかが伝わってこなかった。ひょっとすると、そこはモンゴル社会の文脈があるのかもしれない。